第41章 オマエの隣にだって
『どうしてそんな約束しちゃったんですかっ!』
次に誠凛の控え室で大きな声を出したのは鉄平さんではなく、私の方だった。ちなみに鉄平さんと話し込んでいた私は外で真ちゃんと高尾を待たせているということを、すっかり忘れてしまっていた。
鉄平さんは私たちの試合が終わったあと、悪童こと花宮真と体育館裏でばったり会い、煽るような言葉を浴びせられたらしい。もちろん本当にばったり会ったなんて私も鉄平さんも思っていない。
そこで“明日、楽しみにしているよ”と不敵な笑みを浮かべた花宮に鉄平さんは、こんな提案をしたのだ。
“明日、オレが勝ったら花子に謝るように松野に言ってくれないか?”
と。
そうして煽られてしまった花宮は二つ返事で了承したというのだ。もちろんお互いに負ける気など毛頭なく、双方とも自分たちが勝つと信じている。
そして始まりに戻るのだ。
「どうしてだろうな。アイツの顔見てたら急に腹が立ってさ。つい、熱くなってしまった。」
すまん、すまん、と頭をポリポリと掻きながら鉄平さんは気の抜けたような笑顔を見せた。もちろんそれは、お得意のボケたフリであり、本音の部分には必ず何かが隠れている。
「でも正直なところ勝敗関係なしに、花子に謝って欲しいってずっと思ってるよ。もちろんそれで花子の傷が癒えるとは思っていないがな。」
『・・・っ、』
「まぁそれくらいオレにとって花子は大切だし、可愛い妹みたいな存在だからな。つい手を焼きたくなってしまうんだ。」
大きな鉄平さんの手が頭の上に乗り、髪をわしゃわしゃと撫でられる。
私にとって鉄平さんはお兄ちゃんみたいな存在で、鉄平さんにとっても私が妹みたいな存在であったことが純粋に嬉しかった。
ただ、こんな恥ずかしくなるようなことをさらっと言いのけてしまう鉄平さんは、天性の人たらしなんじゃないかとたまに心配に思う。仮にそうだとしてもこの兄妹のような関係はとても居心地が良かった。
「・・・おい、いつまで待たせるつもりだ?」
聞き間違えることのない冷たい声に身体がビクリと反応し、急いで振り返れば入口にはあからさまに苛立つ真ちゃんと苦笑いの高尾が立っていた。