第41章 オマエの隣にだって
「そんなイライラすんなって、」
「あ?イライラなどしていないのだよっ。」
どうだかなー、と今にも飛び出しそうな言葉たちをなんとか飲み込みため息をひとつつく。案の定真ちゃんは、戻りの遅い山田に苛立ちを募らせている。
そんなに心配なら迎えに行けばいいだろう、とも言いたかったがそんなことを言ってしまった暁には、酷い仕打ちが待っているのは明白であり、そんなことを想像しただけでも恐ろしくなってしまったオレは、やはり口を噤んだ。
とは言っても、だ。
山田が忘れたカバンを取りに行ってから、かれこれ20分が経とうとしていた。そうなれば短気な真ちゃんが苛立つのも、最早仕方のないことだろう。
・・・今回ばっかりは山田が悪いな。
と、ぼんやり考えながら紅く染まる空を眺めていたときだった。
「あれ?山田は一緒じゃないの?」
耳に障るような女性の声に、なんだか嫌な雰囲気を感じ取った。同じくして真ちゃんもあからさまに眉間に皺を寄せるから、オレが感じた嫌な雰囲気は間違いじゃなかったと分かった。
「・・・何の用だ。」
「いや、別に。仮にも同中だったわけだし、あいさつでもしておこうかなーと思って。」
オレらとは反対にニコニコと笑顔を浮かべるそのオンナが誰なのか、“同中”という一言と眩しいくらいの美貌ですぐに分かった。
山田に嫌がらせをしていた張本人、松野先輩だ。
「でも山田いないんじゃ、いいや。」
「・・・。」
口を堅く結んで何も話す気が無さそうな緑間の代わりにオレが松野先輩に問う。
「山田になんの用だよ、」
すると彼女はジロリと上から下を嗜むような目でオレを捉えると、乾いた声で笑った。
「もしかして、あんたも山田が好きなの?」
「ち、ちげーよっ!」
「ふーん、どっちでもいいけど。」
少し声が上擦ってしまったオレを他所に、彼女は笑いながら手を振り背を向けた。
「明日の誠凛戦、勝つためならどんな手だって使う。だって、」
その後に続いた言葉は風の音によってかき消されてしまい、オレたちにはよく聞こえなかった。