第41章 オマエの隣にだって
『・・・あと1年は大丈夫だって、鉄平さん言ってたじゃないですか。』
「ちょっと頑張り過ぎたみたいだ。正直言って、あまり良い状態とは言えんな。」
あははと乾いた声で鉄平さんは笑っていたが、全然笑い事なんかじゃなかった。心無しか、その膝がピクピクと震えているようにも見えた。
『私も日向さんと同意です。やっぱり明日は』
「花子には関係ない話だ。」
最後まで言葉を紡ぐことは許されず、食い気味に且つ大きな声で遮った鉄平さんのその様を見るのは初めてのこと。もちろん関係ないと冷たく遇われたことだって今まで一度たりともなかった。
だからそんな姿を目の当たりにして、次になんて声をかければいいのかも分からなかったし、何よりその先へ踏み込ませてくれないような壁がありそうな気がしてただただ悲しかった。
『・・・っ、でも、』
それでも私は知っている。
あの花宮真がとんでもなく乱暴なことをする人であり、霧崎第一がそうして今まで勝ち続けてきたことを。
そして何より、鉄平さんが怪我をした理由もただの事故なんかじゃなくて、意図的に行われたということも私は知っているのだ。
『やっぱり・・・・・っ、』
“出ないでください”
それなのにそのたった一言が喉の奥でつかえてなかなか出てこない。
とうとう私は下唇を強く噛み締め、開いていた口も堅く閉じてしまうのだった。
「・・・すまん。大きい声出して、」
そんな沈黙を先に破ったのは鉄平さんの方だった。いつものような優しい大きな手が頭の上に乗り、わしゃわしゃと徒に髪を梳かす。
「花宮はきっとオレが出なくたって同じことをする。」
『・・・。』
「オレがあいつらを守りたいんだ。」
その一言に計り知れないほどの重みがあった。それでもただ黙りこくる私に鉄平さんは少し屈んで視線を合わせて口を開いた。
「ふくれっ面の花子もなかなか可愛いんだな。」
『もう、からかわないでください。』
ニヤリと子供のように笑う鉄平さんの腕を払い除け、ひと睨みする。そのあと“ありがとうな”なんて言われてしまえば、もう試合に出ないでほしいとは言えなくなってしまうのだった。