第41章 オマエの隣にだって
“ば、ばかっ!そんなんじゃないよっ!”
顔をこれでもかというほどに真赤に染めて、慌てる山田の姿を見ているとついつい意地悪したくなってしまうのは、所謂オトコの性だからなわけで。
しかしその根底部分にある要因は、自分ではない他のオトコであることに気が付けば、オレの胸はいとも簡単にチクリと痛み始める。
そしてかれこれ、こんなバカみたいなことをオレは何十回と繰り返してきた。
『よし、真ちゃん呼ぼっか。』
大坪さんの一言で気持ちを入れ替えて、真面目な顔をした山田のポニーテールが揺れる。そんな姿にさえドキっとさせられてしまうもんだから、もうオレはかなりコイツに毒されているのだろう。
『真ちゃんっ、』
控え室の扉を開け、山田が声をかけると、そのオトコは険しい顔をしたまま軽く返事をひとつした。
「そういや、前も雨降ってたな。・・・時間だ、行こうぜ。」
『先輩たちも待ってる。』
「あぁ。」
真ちゃんは短く返事をして、オレの隣に立つ山田の頭を荒々しく撫でた。その目には、絶対に勝つという意志がメラメラと宿っていた。
そこからコートに入るまで真ちゃんはずっと黙ったままだった。そしてとうとう試合開始間際まで、その口が開かれることはなかった。
「あれー、真ちゃんどったの?まさかビビっちゃ、・・っ!」
「話しかけるな。」
無口な真ちゃんに少しでもリラックスできれば良いと思い声をかけたが、それは要らぬ心配だったようだ。
「今気が立っている。冗談に付き合う余裕はないのだよ。無論オマエにもだ。」
脱いだTシャツを回収に来た山田にさえも冷たく遇う。
・・・あぁ、そうか。
飢えた獣は危ないとはこういうことだったのか。そして昨日は、こんな獣のような真ちゃんに山田は抱かれたのか、とピンク色の妄想が広がりそうになり急いで首を横に振った。
「ヤツらに勝つ!今のオレにはそれしか考えられん。」
「あぁ、オレもだ。」
試合前のルーティーンである、山田とのハイタッチを交わし、オレたちはコートの中に足を踏み入れた。戦いの火蓋が今、切って落とされようとしていた。