第39章 ・・・殺す
「ねぇ、覚えてる?初めてあなたが出た照栄中の練習試合。」
『・・・っ、』
こくんと首は縦に振れたが、恐怖からか思うように声が出せなかった。そんな私を見て、松野先輩は見下しながら冷たくひと笑いした。
「あのとき、月バスの取材を受けるのは私のはずだった。“期待の新人”?そんなタイトルだったっけ?あれから、もう私はチームのエースじゃなくなった。」
『・・・そんなこと・・・ない、』
「うるさいっ!そんなことあるの。あんたのせいで私は試合に出れなくなった。すごく腹が立った。だから・・・・・、」
“だから、たくさん嫌がらせしたの”
目の前で語られる松野先輩の内容を受け入れたくないのか、聞きたくないのか、知っている言語で話しているはずなのにただの雑音くらいにしか聞こえてこない。
そして雑音くらいにしか聞こえてこない話が、ゆっくりとゆっくりと耳から脳に伝わって、その言葉を理解するころには、かなりの時間が経っていたことだろう。そしてやっとの思いで絞り出した声は小さく、か弱かった。
『・・・・・うそ・・・・だっ、』
「嘘じゃないわ。Tシャツをあらゆる所に隠したのも、バッシュに画びょうを忍ばせたのも、そのバッシュをプールに投げ捨てたのも、全部私がやったの。」
・・・違う。
首を横に振る。松野先輩はそんな人じゃない。可愛くて優しくてバスケが上手で。
私はそんな松野先輩が大好きで、尊敬している。松野先輩みたいになりたいと今だってずっとずっと思っている。
こんな状況でも私はまだ現実を受け入れたくないのだ。これは何かの間違いだ、悪い夢でも見ているんだと何度も何度も首を横に振る。
相変わらず腕を抑えている力は緩まず、じわじわと二の腕が痺れる。灰崎は跳び箱に寄りかかりながら、気怠そうにしていた。
「全部教えてあげる。金魚のフンみたいにあんたにくっついてる赤司と緑間は全部私がやったって気付いて、辞めるように言ってきた。」
『・・・え』
「黄瀬を紹介してもらうことで、一旦は嫌がらせを辞めたの。ちなみに宮古さんも私とグル。赤司が付き合ってくれたら嫌がらせをしないっていう約束で付き合ってるの。知ってた?知るわけないか、鈍感お姫様だもんね」
知らない。私は何も知らないのだ。
声高々に笑う松野先輩の声だけがやけに耳に残る。