第32章 知らないフリをしよう
「赤司、花子どうしたんだ?」
休憩になると早速緑間がオレに声をかけてきた。花子に意地悪を言ったりするくせに、本当はとっても気にかけている緑間。
聞かなくても分かる。
緑間は花子のことが好きだ。
「Tシャツを忘れたらしい。」
「珍しいな、忘れ物なんて。」
そう、花子が忘れ物をするなんて極めて珍しいこと。そしてそれがウソだと言うことにオレは気が付いていた。
なぜなら、花子はウソが下手で、必ずウソをつく時は髪の毛を触る、そういう癖があった。
どうして本当のことを言わなかったのか、このときはまだそれが分からなかったが、花子の忘れ物は不定期だがその後も何度か訪れた。
『ごめん、Tシャツ借りてもいい?』
「オマエ、最近忘れ物が多い。らしくないのだよ。」
『・・・だよね、ごめん。』
その度に花子はやはり本当のことは言わず、ごめんねと謝るばかりだった。緑間はらしくないと叱り、オレはいつも多めにTシャツを持ってきて花子が困らないようにしていた。
「緑間のより小さいだろ?オレの持ってけよ。」
『いつもごめんね。』
Tシャツを2枚手渡すと、花子は走って隣の体育館へと戻って行った。
「赤司は花子を甘やかし過ぎなのだよ。」
「困ってる女の子を放っておくなんてオレは習ってないからな。」
「女の子ってタマじゃないだろ、花子は。」
緑間は呆れたように鼻で笑うとアップを始めた。