第31章 楽しくてしかたないの
「土曜日の試合凄かったよー花子!」
月曜日、登校するとすぐに席にやってきたのは朝から元気の良いさつきだった。
あの日、試合が終わったあと月バスの取材を受け、帰る頃にはヘトヘトになっていた。
真ちゃんの家で夕飯を食べたあとそのまま寝てしまい、背負って真ちゃんが私の部屋まで運んでくれたらしいのだが、全く夕飯後の記憶がない。それくらいに土曜日は疲れていた。
「来月の月バス載るんでしょ?」
『そうだけど、小さい記事だよ?』
「毎月大ちゃんが買ってるから見せてもらう!」
『ありがとう。』
本当であれば松野先輩が載る予定だった月バス。テーマは昨年活躍したエース、だったらしいが、松野先輩の不調、その代わりに出た私が期待の新人として雑誌に載ることになった。
もちろん、思うことは色々ある。
それでもそんなことを気にしている暇など私にはなかった。大好きなバスケをやるからには試合にも出たいし、勝ちたい。その為には先輩たちよりも多く練習しなければならないのだ。
「朝からおっかねぇ顔してんじゃねぇよ。」
『っ! ごめん!・・・て、灰崎くん?久しぶりだね。』
いつの間にかさつきは自席についており、気が付くと隣の席の不良が珍しく遅刻もせずに登校していた。
「オレはオマエ見たけどな、土曜日試合してるとこ」
『そうなの?』
「後半ちょろっとな。意外とバスケ上手いんだな。プレイスタイルが緑間みたいでムカつくとこあるけど」
『それ、褒めてるの?貶してるの?』
私の問いに、灰崎くんはどっちも、と笑った。
『灰崎くんって、笑うんだね。』
「はぁ?」
『ほら、そうやってすぐ怖い顔になるから。』
私に指摘されたのが嫌だったのか、灰崎くんはすぐ様視線を逸らした。カバンから荷物を取り出すと呆れたように話し出した。
「逆にオマエはバスケしてるとき、ヘラヘラしすぎだぜ?」
『だって私、楽しくてしかたないの。バスケしてるとき。』
「ふーん、アホくさっ」
灰崎くんは取る気もないノートを開いて、そのまま机に顔を伏せた。