第31章 楽しくてしかたないの
「花子頑張れーーーっ!」
桃井の声に気付いた花子が、コートからオレたちを見上げる。緊張していないのか、いつものようにニコっと笑う花子はやっぱり可愛いと思った。
残り4分。
この時点で20-29の9点差で負けていた。深呼吸をしてパスを貰った花子のニヤリと笑った顔にオレは見覚えがあった。
それは、去年の今頃だった。
小学生も高学年になれば、男子と女子では差が出てきて、それはオレたちにも当てはまった。
3人とも同じ子供だったはずなのに、オレと赤司は花子を置いてどんどんと身長が伸びた。
変わったのは身長だけでなく、力も体力もどんどんオレたちの間には差が出てきていた。これがオトコとオンナの違いなんだと、理解した頃には1on1で花子が勝つことは無くなっていた。
花子は別にそのことについて1回も文句や泣き言は言わなかったし、オレも赤司も真剣に挑んでくる花子に対し手を抜くこともしなかった。
ただ負けず嫌いな花子は何度もこう言うのだった。
『もう1回!次は勝つから!』
と。
そのとき花子はいつもニヤリと笑うのだ。決してそれでオレたちに勝つことはなかったが、花子はいつも本気だった。
気付いたときには、そんな花子を好きになっていた。
「伊達にオレらと練習してないな、花子も。」
赤司は優しそうに笑って試合を見ていた。きっと赤司もオレと同じことを思い出し、同じことを思ったに違いない。
「花子すごーいっ!ミドリン見た?」
「見たのだよ。」
「もう3本連続だよ、3P!」
「むしろ当たり前だよ、桃井。」
赤司はコートから視線を外すことなく、テンションの高い桃井に続けた。
「この緑間が指導しているんだ、外れるはずなどない。」
赤司の言った通り、この試合花子は3Pを1本も外すことなく試合を終えた。計8本の3Pを決めた花子のおかげで帝光中は見事に勝利したのだ。