第31章 楽しくてしかたないの
「ミドリーン、早く早く!始まってるよ!」
「その呼び方どうにかなんないのか?」
「え?だってミドリンはミドリンでしょ?」
緑間と桃井がゴチャゴチャ言いながら、オレの後ろから着いてくる。練習の合間を縫って、男子バスケ部が使っている第2体育館から、女子バスケ部が使っている第3体育館の2階へと来ていた。
目的は、花子の練習試合だ。
このカードは月バスで何度も取り上げられるほどであり、今年はどちらが日本一になるのかと早くも先月の月バスでは特集が組まれていた。
今日もどこから情報を仕入れたのか、既に取材らしき人たちがこの試合をカメラを構えながら見ていた。
試合は丁度第2Qが始まったところで、16-15。花子たちが1点だがリードしていた。
「花子はまだ出ていないようだね。」
ベンチに座る花子に視線を落とすと、真剣な表情で試合を見ていた。その姿はどこか子供っぽくて、可愛いらしいなと思った。
ここ最近の花子のバスケに挑む姿勢は素晴らしいものだった。緑間の言葉を借りるなら、花子はとても“人事を尽くしていた”。
きっとその理由は、2年生にして帝光中のエース松野先輩だ。花子は彼女に憧れ、彼女を越えたい、その一心で練習しているのだろう。
しかし、今日の松野先輩のシュートはなかなか決まらない。
「松野先輩、入らないな。」
「タメが短い。あれじゃ、何本打っても入らないのだよ。」
「足、痛めてるんじゃないかな?」
桃井の一言で、彼女の足に注目してみるとやはり右足を痛めているのか負荷が全て左側にかかり、そのせいでシュートが入らないようであった。
もちろんそんなサインを人相の怖い監督が見過ごす訳もなく、2Q残り4分で交代のサインが出された。
彼女の変わりにコートに入ったのは、オレが選んだバッシュを履いた花子だった。