第8章 溢れる幸せと自分の役割
湯船で体を温めながら、ノエルはやはりどこかおかしい自分の身体について考えていた。
(うーん……何だっけこれ。昔お母さんが言ってたような言ってなかったような……?)
いくら考えても答えは出ない。このままだと逆上せてしまうと判断したノエルは、上がる事にしたのだが。
「何これ嘘でしょ……⁉︎」
目を開けると、湯船は薔薇の花びらでいっぱいになっていた。さながら薔薇風呂。
(…………うん、みんなごめん!)
見て見ぬ振りをし、そのまま脱衣所に向かったノエルだった。
後に入ったイッカクがはしゃぎながら楽しんでいたとか。
入浴後肌がツルッツルでノエルちゃんに足向けて眠れない! と豪語していたそう。
そしてさらに後から入ったシャチやペンギン達は驚愕の表情だったとか。
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「それでね、オドは、神様がみーんな持ってるもので、一人一人変換できる力は違うんだよ」
ローの部屋でペラペラと本をめくりながら、ノエルは神の話をする。
ベッドに座っている彼女の膝枕を堪能しているローは、興味津々だ。
「聞けば聞くほど面白ェ話だな。他にはないのか?」
「んー、他にはねェ……」
ペラリとページをめくるノエルの手を掴み、やっぱりいいと言い出すロー。
何故? と問いかける彼女の体調が良くない事など、彼は最初からわかっていた。そしてそれが、自分が治せるようなものではないという事も。
「いっぺんに聞いちまうと楽しみが減るだろ。続きはまた今度だ」
そんなローの返答を聞き、くすりと笑うノエルの手を引っ張り、ベッドに寝転がらせるロー。まったく、器用なものだ。
「ホラ、寝るぞ」
「はあい」
未だくすくす笑っているノエルから本を取り上げ、ベッドサイドのテーブルに置く。
ちらりと見えた本の中は、先程彼女が言っていた通り、自分には到底読む事の出来ないだろう文字でいっぱいだった。
「おやすみなさい、ロー」
「あァ、おやすみノエル」
だから、ローは気付かなかった。
一瞬見えたそのページの中身が、とても重要な事であると。
それを、ノエルが見落としていた事を。
もっと早く知っていれば、あんな事にはならなかったのに。
この時のローは何も…………知らない。