第8章 溢れる幸せと自分の役割
「あー、これでしょ?」
掌を上に向けると出てくるのは薔薇の花。
ノエルが比較的好んでいる花だ。
「……原理がわからねェ」
ヒョイっとノエルの肩口から覗いて、ローは呟いた。彼女からしたら、悪魔の実の原理の方がわからないらしいが。
(まあそれは、私も悪魔の実食べたし同じ事言えるんだけど)
「四季姫の力ってね、ちょっと面白いんだ。【オド】って言う不思議な力を使ってるんだけど…………どう説明しよう」
うーん、としばらく悩んでいたが、あァ、と思い出したようにポン、と手を打った。
「ファンタジー小説でよくある魔力みたいなもんかな」
そう言うと、皆がすぐに納得した。
その類が好きなシャチは若干興奮気味だった。
「スッゲー! 神様スッゲー!!」
「唐突に語彙力下がったね⁉︎」
流石のノエルもびっくりである。
「神の話か、信じちゃいねェが興味はあるな」
「おっ、じゃああとで話したげるね! 部屋の本に書いてあるはずだから」
おれも読みたい! と何人かが挙手しているが、残念、とノエルは苦笑した。
「多分世界で私しか読めない文字で書かれてるから、ちょーっと難しいかなァ。今度読み聞かせてあげるよ。今日はロー優先ね」
はーい、と素直に手を挙げるハートの海賊団の船員達。
夕食後は各々自由に過ごしているが、シャチとペンギンは酔っ払っている。隣で同じように酒を飲んでいるローは、全然酔っていない。
私も少し飲もうかな、なんて思った頃。
「あ、ノエルちゃん。お風呂入っておいでよ!」
「え、いいの? みんなだって入るんじゃ……」
「いいのいいの、みんな見事にお酒入ってるし、ノエルちゃん遅くならないうちに入っちゃったらいいよ!」
私もその後入るから! と、言うイッカクに、じゃあ遠慮なく、とノエルは着替えを取りに部屋に戻っていった。
「っふふ、もうみんな、ノエルちゃんに夢中だね」
走って行くその背中を見つめながら、イッカクは一人静かに微笑んだ。
────はずだった。
「可愛がるのは構わねェが、好きになられンのは困るな」
コトリ、と酒瓶とグラス二つをテーブルに乗せたローが返事を返してきた。
「大丈夫ですよ、みんなの可愛い妹だもの」
その後言葉に、フッと静かに笑うローだった。