第8章 溢れる幸せと自分の役割
「夕飯まで寝てろ」
さらりとノエルの頭を撫で、ちゅっと唇にキスを落とした。
ふにゃりと笑うノエルの頭を撫で続けるロー。次第に彼女はうとうとと船を漕ぎ始めた。
「んぅ…………ろー、おてて……つないでて?」
「あァ……ほら」
左手でノエルの頭を撫でながら、右手で彼女と手を繋ぐ。
(おててって何だ、おててって。可愛すぎか)
若干のキャラ崩壊は否めないが、一切顔に出さず、ノエルの手を握る。
やがて規則正しい寝息が聞こえてくると、ローはタクトで机の上の本を取り寄せ読み始めた。
穏やかで優しい時間が過ぎていく。
それは、二人を呼びにきたペンギンが訪れるまで続いた。
「船長、夕飯の時間で…………ノエルちゃんどうかしたんですか?」
「もうそんな時間か…。頭が痛いらしいから寝かせた。起こすか?」
「食べられそうなら二人で来てください。ノエルちゃんが無理そうなら、二人の分ここに運びますから」
「悪いな、助かる」
ペンギンを見送った後、ノエルの寝顔を見やる。電伝虫で写真を撮りたい衝動に駆られるも、なんとか我慢した。
「ノエル、起きろ。ノエル」
「んー……」
どうやら意識は起きているらしい。が、ノエルは返事をするだけで一向に起きようとしない。
数回同じ事を繰り返したが、ノエルは起きようともしない。
痺れを切らしたローは、ノエルの体を揺さぶる。パチリと可愛らしい瞳を開けて、起き上がるも、すぐさまベッドに倒れこもうとする。
そんなノエルを支えてやったローに、彼女は縋り付いた。
「んうう……」
朝の寝起きはいいのだが、昼寝の寝起きは悪いらしい。ノエルの新たな一面を知れたローは、ニヤニヤが止まらない。
「ほら、一回起きろ」
「ん〜…………」
仕方ないと言わんばかりにローから離れ、その顔をふにゃりと綻ばせる。
「おはよう、ロー」
「おはよう、寝坊助さん。頭はどうだ?」
しばらく考え込んだ後、ノエルはふるふると首を横に振った。
「痛くないよ、大丈夫。ローが手、握っててくれたおかげかな。ありがとう」
はっきりと、寝惚けていない声でそう言われ、ローは顔が熱くなるのを感じた。