第8章 溢れる幸せと自分の役割
「うー………………」
ここ数日、ノエルはずっと悩んでいた。あー、やらうー、やら言いながら船内をうろついている。
腕の中のヴィルセンも、何事かと主人を見やる。
(ローは船長で、お医者さんで……みんなの上に立ってる偉い人)
ノエルは歩きながら船員達の事を考える。一人一人、役職ごと。
(ベポは航海士で、この船をちゃんと目的地まで運んでいる)
ちゃんと、顔も思い浮かべて。
(ペンギンは、ローの補佐役みたいな感じでいつもしっかりしてる。ある程度の医療知識もあるみたいだし)
船内を目的もなく歩き回る。そんな彼女を船員達は心配そうに見つめている。
(シャチだって、ああ見えて医療知識だってあるし、戦闘員として毎日鍛錬頑張ってるみたいだし)
若干シャチに対しての評価が低いが、突っ込む者は誰もいない。
(イッカクちゃんだって、料理できるし、女子力高いし……戦闘できるみたいだし……)
自分だって戦闘に向いているはずなのだが、何故かそこに考えが向かないノエル。
(クリオネもウニも、みんなみんな何かしらの役割があって、それはその人じゃなきゃダメなもので…………)
「けど私は……」
(みんなみたいに医学知識があるわけでもないし、メスなんて……怖くてとても持てやしない。
ローに助けてもらってその船に乗ったけど、私にも何か出来る事があるのかな。
あるといいな、この船で、私にしかできない事)
うろうろしながら悩み続ける。腕の中でにゃーにゃー鳴いている愛猫におやつをあげ、甲板に出る。
船員達が鍛錬したりはしゃいだりしていた。
見つからないように高い場所に登り、海を眺めた。
「ねェヴィル」
「みー?」
おやつにもらった小魚を美味しそうに食べながら、ヴィルセンは主人を仰ぎ見る。
「私も、この船で…………私にしか出来ないような事見つけたいな」
「にゃん、にゃうにゃあにー」
「私とヴィルならできるよねっ! がんばろー!」
「にゃんにゃー、にゃーう!」
まるで会話が通じあっているかのように話す二人。その場でしばらく日向ぼっこを楽しんでいたのだが、突然降ってきた雨のせいで、船内に入る事になった。