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死の外科医と四季姫

第6章 気持ちの整理


「…………は?」

ローは二つの意味で動揺していた。まず、ノエルが抱かれる意味を知っていた事。そして、この状況で断ったノエルに。

思わず出た低い声に、ノエルが一瞬驚いたが、すぐ慌てたように両手を横に振り始めた。

「ち、違うの! ローには、その…………だ、抱かれたい……んだけど! お風呂、入りたい、です……」

だんだんと小さくなっていく言葉だが、ローにはハッキリと聞こえていた。聞こえていたからこそ、また驚いた。

(本当に……可愛い事ばかり言ってくれる)

「あァ、いいぞ。入ってこ……」

「や、ヤダ! ロー、お先にどうぞ……」

またもや驚かされる。目の前の女は、自分が今まで接してきたどの女達とも違うらしい。

ノエルらしいと言えばノエルらしいが。

「私、心落ち着かせたいって言うか……その、だから、ね?」

ウルウルとした瞳でローを見つめる。その瞳にローが弱い事を知らず、無自覚でやってくるのだからタチが悪い。

「わかった、ちょっと待ってろ」

あやすようにノエルの頭を撫で、ローはバスルームへ向かっていった。

この部屋は、一番高いだけあるらしい。ベッドルームの隣の部屋はリビングになっていて、ベランダまで付いている。

ノエルはベッドの上で膝を抱え座っていたが、やがてベランダに出て、星を眺め始めた。

「星屑(アマ・デトワール)」

指先を指揮棒のようにくるりと回すと、それに合わせたように星屑が踊り出す。
本来隕石を落とす技ではあるが、このような使い方もあるのだ。

「ローに……嫌われてなくてよかった」

むしろ好かれてたなんて、と浮かれたノエルは空にハートマークを描く。その軌跡を辿るように、宙の星がハートの形に輝く。

ノエルの描いたその星々の絵達は、後にこの島の伝説となるのだが、この時のノエルはまだ知らない話。
そして

「上がったぞ」

「ひゃうっ⁉︎」

背後から声が聞こえた。振り返ると、バスローブを着たローがいた。

「は、早いね……」

「男だからな。お前も、早く入ってこい」

「はい……」

顔を真っ赤にさせながら、そそくさとバスルームへ向かった。

ノエルがいなくなった後、ローは宙を見上げた。
そこにあるハートマークを見つけ、嬉しそうに笑っていた。
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