第6章 気持ちの整理
知らなかったとは言え【死の外科医】と言う通り名の男に、助けを求めたのだ。
普通であれば、怖いと思うのだろう。だが、ノエルは何故か確信していた。きっと自分を助けてくれるだろうという事を。
四季島で泣いていた時、抱きしめてくれた。
一緒に背負うと、そう言ってくれた。
その日からローの顔が緊張で見られなくなった。酒を飲んで酔っ払って、ローに絡みに行った時、ローにイタズラを仕掛けられた。
今朝だって、色々された。
それでもローをいやだと、嫌いだと思えないのは
(なんだ……初めから全部、簡単な事だったんだ)
今なら、帰り道がわかる気がした。
ノエルは躊躇いもなく走り出す。恋しいあの人の元へ行くために。
(私……ローの事、好きだったんだ)
走るノエルの後を黒猫は必死に付いていく。
(イッカクちゃん、私ちゃんと気付けたよ。教えてくれて、ありがとう)
ローと話をしたら、イッカクとも話をしよう。そう思い、軽やかな足取りで道を走っていた。
その時。
────────グイッ。
路地裏から伸びた手が、ノエルの右手首を掴み、暗闇へと引きずり込んだ。
「アニキ! コイツ上玉じゃねェですかい! 売り飛ばしたらすげェ金になるぜ!!」
「おい待て早まるな! コイツ売り飛ばしゃすげェ金になるのは間違いねェ。だが、売られりゃどうせイヤってほどされるんだ。その前に味見したって問題ねェよ」
ギリ……と右手首を壁に抑え付けられている。
舌舐めずりをしながら何やら不穏な事を言っている二人組。
しかしノエルには聞こえていない。掴まれた右手首が気持ち悪くて仕方がない。
「抵抗しないって事は、こういう展開望んでたんですかねィ! いやァ可愛い顔して考える事がヤラシイなァ」
茶髪の男は頭が悪いらしい。その言葉だけ聞こえたノエルがカチンときた。
「ばっかお前、怖くて抵抗すらできないに決まってんだろ! まあ、そっちの方が好都合なんだけどな!!」
やや小太りで帽子を被った男も同じく頭が悪いらしい。
右手首の不快感に我慢の限界がきたノエルは、男達を蹴り飛ばそうとした瞬間
「オイ」
「……え?」
目の前に、聞き慣れた声と共に見知った背中が現れた。