第6章 気持ちの整理
「この子公園によくいるんだけど、あんまり人になつかないんだよ。でもお姉ちゃんにはなついたんだね! そういえばお姉ちゃん、どうしてこんな時間まで公園にいるの? もしかして、かえるおうちないの?」
「こら、アイリーン!」
慌てて少女の口を塞ぐ母親に大丈夫ですよ、と言い、ノエルは少女の前にしゃがみ込む。
「お姉ちゃんはね、海を渡ってきたの。船が私のお家だよ。心配してくれてありがとう」
「海⁉︎ お姉ちゃん海賊なの⁉︎」
キラキラと目を輝かせ、興奮気味で話す少女はどうやら海賊が好きなようだ。
「うん、最近なったばっかりだけど。あ、海軍にはナイショにしてね?」
人差し指を唇に当てウインクをした。こくこくと首を縦に振る少女に、能力で出した薔薇を差し出し、母親に会釈をして公園を後にした。
ちなみに黒猫は未だノエルの腕の中で眠っている。
「マジシャンのお姉ちゃーん! またね!!」
「またね!!」
少女の声に負けじと声を張り上げ、大きく手を振って歩き出す。マジシャンと思われたが、まあいいだろう。
道は相変わらずさっぱりわからないが、いい香りのする方向へ行けば問題ないだろうと判断し、気の向くままに歩いていく。
途中、香りに誘われるように目が覚めた黒猫は、ノエルの腕から降りて後ろをちょこちょことついていった。
とっても遅い昼食か、はたまた早めの夕食か。どちらにせよ食事を摂る事にした一人と一匹は、レストランに入っていった。
ノエルは外の席に座り、パンとスープのセットと、皿に入った牛乳を頼んだ。パンをちぎって牛乳に浸し、黒猫に食べさせる。
フンフンと匂いを嗅いでから、黒猫は食べ始めた。それを見たノエルも食事を始めた。
食事を終える頃にはもう日はすっかり暮れて、空は群青色になっていた。
そろそろ出ようとすると、黒猫が膝に飛び乗り、ノエルの唇の端をペロリと舐めた。パン屑が付いていたらしい。
「あら、ありがとネコちゃん」
「にー」
撫でながらふと、今朝の事を思い出した。
(そういえば…………ローにちゅー……されたんだよね?)
そろりと指先で唇に触れた。不思議と嫌だとは思わなかった。
むしろ、ローならいいと思ったのだ。
(そういえば、初めて会った時、私はローに助けてと言ったのよね)