第5章 自覚と戸惑い
優しく頭を触る手の感触で、ノエルは目が覚めた。どうしたんだっけ、とボーッとした頭で考えるが、何も浮かばない。
髪を触る気持ちのいい感覚に、もう一度目を閉じようとしたら
「起きたか」
頭上から声が聞こえてきた。いつも髪を拭いてくれている声ではない。それどころか、悩みに悩んでいる相手……
「ッ、ロー⁉︎ 何で……⁉︎」
「風呂場で逆上せて倒れたお前を、介抱してやったんだよ。それと……」
言い辛そうに目線を泳がせるロー。こんな彼を見るのは初めてだ。何を言われるのかと身構えるも、ローから放たれた言葉はとても意外なものだった。
「逆上せたお前に水を飲ませようと…………口移しした。悪かった」
ぽかんと口を開けてローを見つめる。なんだ、そんなことか。そう思って気にしなくていいと言うノエル。もはや正常な判断はできていないらしい。
「お前………………なんでもない」
女なら普通気にするんじゃないのか、そう思ったが聞くのは野暮だ。再びノエルの髪を拭く。さらりと流れる亜麻色の髪に、思わず唇が引き寄せられるが、懸命に耐える。
彼女の髪に触れたのは初めてだった。指通りがよく、いつまでも触っていたいと思うほど。
拭き終えても触り続けられ、離れるタイミングをなくしたノエル。だが、嫌ではない。
離れていかないノエルに、ローは恐る恐る頭に触れる。ビクリと肩が震えるが、逃げはしない。
むしろノエルはその手に擦り寄った。撫でてと言わんばかりに、ローの手にスリスリと頭を擦り付ける。
「お前……自分が何してるかわかってんのか」
戸惑っているような怒っているような、そんなローの声を聞いたノエルはハッ! と頭を離す。
「ごっ、ごごごごご、ごめん!」
もういいよ、ありがとう!! と言って立ち上がり、彼女はリビングから走って逃げた。
途中ですれ違った(船酔いをしていない)船員達が、もう少しで島に着きそうだと言っている。
宴をほどほどでやめ、船を進ませてくれた船員がいるらしい。顔もわからない誰かにノエルは感謝した。
部屋に飛び込み服を着替える。脱いだ服からローの香りがして戸惑った。
着替え終えたと同時に島に着き、ノエルは船から飛び出して行った。
因みに、一緒に行くと言ったペンギンはフラれたらしい。