第5章 自覚と戸惑い
フッと目を開けて時計を見ると、だいぶ時間が経っていた。どうやら、だいぶ眠っていたらしい。
船内があまりにも静かだが、時間的に早い事と、どうせ甲板で二日酔いにでもなっているのだろう、と思ったローは、ノエルを探す事にした。
あのまま、曖昧にはしたくなかったのだ。あのキスの意味を聞きたくて仕方ない。部屋をノックしてみるが、反応はない。
何処に行ったんだ、と探しに行こうとした時、風呂場から何かが崩れる音がした。
「何があった⁉︎」
勢いよくドアを開けると、ノエルがいた。しかも、全裸。またやってしまった、とローは焦る。
当然のように技を繰り出してくるノエルだが、そのスピードは前回よりもはるかに遅い。あっさりと避けるローだったが、ノエルは床に倒れ込んでしまった。
「おい! ノエル⁉︎」
側にあったタオルで彼女の身体を包み込み、抱え上げた。自室に戻り、大きめのパーカーを着せてやった。普段黒いチューブトップばかりだからか、白いパーカーはとても新鮮だ。
「悪い…………。起きたら殴っても何しても構わねェから」
コップに用意した水を口に含み、ノエルの唇に口付ける。流し込むと、彼女の喉が動いた。それを数回繰り返す。
「ハッ………」
初めて口付けた彼女の唇は、柔らかくほんのりと甘い味がした。欲に負けもう一度だけ口付ける。
(甘ェ……だが、悪くねェ)
リビングに連れて行き、彼女の髪を拭く。しばらく吹いていると、ペンギンやシャチ、ベポ、イッカクと、船員達がやってきた。
ペンギンとイッカク、ベポ以外はほぼ全員顔色が悪い。やはり二日酔いになっていたらしい。シャチはイッカクに遊ばれている。
「おはようございます、船長。甲板の片付けはしてあります。ところで、ノエルちゃんどうしたんです?」
「ああ、わかった。風呂で逆上せて倒れたんだよ。悪いな、今日はおれが髪を拭いてる」
「そう、ですか」
少し残念そうなペンギンだが、内心嬉しくもあった。ここ最近ずっともどかしい状況が続いていたのだが、昨夜何か進展があったらしい。
不器用な船長と、鈍感な船員の恋。早く二人が幸せになれますように。
優しくノエルの髪を拭くローを見ながら願うペンギンだった。