第5章 自覚と戸惑い
顔の横にローの両手があり、逃げ出す隙はなさそうだ。
「なァ、お前は…………おれの事どうおもっ……⁉︎」
意を決したような表情をしたノエルは、ロー話を聞かずに、彼の額に口付けた。
「は…………?」
驚いたローの力が緩んだ隙を狙い、ベッドから脱出。逃げるように自分の部屋に戻って行った。
残されたローは、ベッドの上に座り込みぐしゃりと髪を握りしめた。
(自分が自覚したからって、相手に気持ち自覚させようとすんのは違ェだろ……しっかりしろ、おれ…………)
はー、とため息を吐いてベッドに横になった。顔を覆うように手を置き、目を閉じる。落ち着かせるように深呼吸していたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
一方ノエルは、部屋に戻るなりドアに背を預け、ズルズルと座り込んでしまった。頭を抱え込むようにし、身を縮こませている。
心臓ははちきれんばかりに早鐘を打っていて、死ぬのでは、と錯覚するほど。
(何で、何で、何で、何で……⁉︎ ローに、あんな事されて…………いやでは、なかった。でもあんな…………ちゅー、出来そうなくらい近くて、それで…………ッ!)
「わああああああああん!!!」
キャパオーバーで叫び出すノエル。そんな奇行に驚くだろう同居人であるイッカクは、この場にいない。
大混乱しながらも着替えをひっ掴み、浴室へと駆け出す。
「癒される水(スルス・テルマル)ぅ!」
自身の能力で適温のお湯を出し、バスタブに突っ込む。体と髪をさっと洗い、バシャリと勢いよくお湯に浸かる。
顔も半分ほど浸かり、ぶくぶくと泡を吹いて考え込む。お風呂だからなのか先程の余韻なのか、顔は驚くほどに真っ赤だ。
(ローは、どういうつもりなんだろう……。私で遊んでる? だったら…………辛い、な)
遊ばれているだけ、そう考えると胸が痛くなった。何故自分はこんなにローに振り回されているのだろう。
考えても考えても、答えは出ないだけだった。少し入りすぎたのかもしれない。少しボーッとしてきた。
上がって、脱衣所に出た瞬間。ガシャン! と派手な音を立ててノエルが転倒した。
「何があった⁉︎」
「ッ⁉︎ 聖氷剣!!」
「なっ⁉︎ おい、ノエル!!」
今度は避けたローだったが、ノエルの意識が遠のいていった。