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死の外科医と四季姫

第2章 ハートの海賊団との出会い


そんな力ある実を、四季を操る四季姫が食べたら……。その人間の価値は数倍以上に跳ね上がる。だから政府は徹底的に下準備をしていた。

唇を悔しそうに噛み締めて、彼女は目を開けた。その目には涙が滲んでいた。

「ノエル」

声が聞こえた気がした。自分の名を呼ぶ母の声が。

ガタン!!

突然、船が大きく揺れた。物資補給のために、島に上陸したらしい。見張りの海兵が騒いでいた。

「お前らも来いよ!」

「でも、この人の見張りが……」

「いいっていいって! 海楼石の首輪つけられて逃げ出せるわけないだろ! それにコイツにゃ帰る場所はねーんだ。逃げるつもりもないだろーよ!」

その言葉を聞き、見張りの海兵までもが島に出て行った。

興味が無いように壁を見つめていたノエルだったが、人の気配が無くなると、四つん這いになった。

「悪魔の実の力は使えないけど、四季姫本来の力も使えないわけじゃないのよ」

床の上に手を滑らせ、時々コツコツとノックをする。脆い場所を探しているらしい。

やがて、他とは音が違う場所を見つけた。立ち上がり、そこに掌を向ける。

目を閉じ、何かに集中しているようだ。
ゆっくりと、だが確実に掌にエネルギーが集まっていく。

帰る場所も待っていてくれる人もいない彼女だが、逃げる気が無いわけではなかった。
むしろ、逃走する気満々だ。

だから敢えて、この部屋に入ったのだ。最初は待遇のいい部屋に入れられていたが、反抗に反抗を重ね、この部屋に入れられるよう仕組んだ。

彼女は内心、見張りが馬鹿な海兵で助かったと思っている。

やがて彼女の掌には、そこそこの大きさの氷の塊が出来上がっていた。

「っ、えいや!!」

その場所に向けて放った。ドゴォォン! とやや派手な音を立てるが構わない。海兵は全員島で遊んでいるのだから。

石造りの床は案外脆く、空いた穴からは海水が溢れ出していた。

流石の彼女も能力者。海水に力を抜かれるが、すぐ下に砂浜があるのを見つけた。
人一人通れるような穴に無理矢理体を突っ込み、抜け出す。

海水で思ったように動けず、あちこちに新しい傷ができるが、抜け出す方が先だ。

やがて、彼女は陽の光の下に出た。何日ぶりの太陽だろうか、眩しさに目を細めた。

船体に身を隠し、周りに海兵がいない事を確認すると、彼女は街に向かって走り出した。
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