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死の外科医と四季姫

第5章 自覚と戸惑い


それに気付かずローは首筋に唇を寄せ、チューブトップを支える紐の端を咥える。クッ、と引っ張るとあっさりと解ける紐。

頬にキスしようと彼女の顔を見ると……

「寝やがった……」

寝た、と言うよりかは気絶に近い。酔いが回っていたのもあるだろう。

仕方ねェな、と独り言を言い、ローはノエルから離れた。隣に寝転び彼女を抱きしめる。

(何でまたこんな女を…………)

あのままノエルが起きていたら、彼女の反応を見つつ、続きをするつもりだった。涙に潤んだ瞳、桜色の柔らかそうな唇。理性の限界だった。

ローはノエルを抱きしめながら考える。出会った時から、彼女が頭から離れなかった。

助けて、とそう言われた時、突き放す事だってできたのだ。腕を振り払う事は造作も無い事だった。だが、ローはそれをしなかった。挙句仲間に加えた。

何度も何度も、彼女を気にかけた。落ち込んでいたら慰めたし、笑っている顔が見たいと、尽力を尽くした。

洒落た服を着た時は可愛いと思った。彼女を見る男がいたら、少しイラついた。

事故で裸を見た時は、思わず見惚れた。

初めて会話をしなかった日は、何故か心がざわついた。

彼女の香りが残った枕を、無意識に抱きしめた。姿を探してしまった。

避けられた時は…………寂しいと、そう感じた。隣にノエルがいない事に違和感を感じた。

初めて名前を呼んだ時は、心がくすぐったく感じた。

(あァそうか、おれは…………こいつに惚れてるのか)

やっと自覚したその感情に、ローは一人で納得した。彼はもうとっくのとうにノエルの虜なのだ。

他の男にとられたくない、そう思うほど、彼女を大切な存在だと認識している。

「全部、お前のせいだからな。おれを惚れさせたんだ、おれの所まで堕ちてこいよ……」

ノエルを一層強く抱きしめるロー。今思えば、初めて会ったあの時から惹かれていたのだ。

アメジスト色の、あの瞳に。目が合った時にはもう、こうなる事は確定していたらしい。

万人をも魅了する不思議な瞳。あの瞳に見つめられたら最後、もう後戻りはできない。あっさりと、恋という落とし穴に真っ逆さまだ。

「脈ナシではなさそうだがさて…………いつ気が付くか」

くくっと喉で笑い、目を閉じた。腕の中のノエルは幸せそうに眠っていた。
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