第5章 自覚と戸惑い
「お母さんは5年前に病気で死んじゃったし、お父さんに至っては、顔を見た事がないの。おばあちゃんもおじいちゃんも、私が産まれる前に亡くなってるらしいから…………天涯孤独ってやつ?」
そうノエルが言うと、周りが一気に涙ぐんだ。終いにはノエルには俺達がついてるからなああああ! と騒いでいる。完全に酔っ払いだ。そして始まる、船員による質問タイム。
「ノエル〜! 好きな食べ物って何だ?」
「イチゴと生クリームのサンドウィッチと、チョコレートかな」
「好きな色は⁉︎」
「んー…………ピンク」
「じゃあ嫌いな食べ物は?」
「苦いもの……あ、でもコーヒーは飲めるよ? と、あとは酸っぱいものかな」
割とどうでも良さそうな質問まで、一つ一つ丁寧に答えていくノエル。やがて船員の誰かが、こんな質問をしてきた。
「ノエルはさ、俺達と出会えなかったらどうするつもりだったんだ?」
その質問は、今自分たちが出会えているからこそできる質問だ。ノエルは、みんなになら話してもいいかな、と呟いてからその質問に答え始めた。
「どうしても会わなきゃいけない人のために、一回島に戻るつもりだったの。で、その後はその人を探しつつ、会いたい人に会うつもりだったよ。その後の事は…………何も考えていなかったかも」
何かを懐かしむように空を見上げるノエル。手にしたジョッキの酒は減るどころか口はつけられていない。そのため、ノエルが見ている空をそのまま映していた。
「その会わなきゃいけない人と会いたい人は別なのか?」
シャチの問いに、ノエルはその顔をじっと見つめた。サングラス越しではシャチの瞳は全く見えない。
「そう、会いたい人は友達で、四季島に住んでた頃にできたんだよ。会わなきゃいけない人は、今何処で何をしているのかわからない。でも、絶対に何をしてでも会いたい人なの」
にこりと笑っていうノエルの話を、皆が興味深そうに聞いている。イッカクが、ノエルちゃんの友達に会ってみたいな、と言うと、ノエルは一人はみんなも知っている人だと思うよ、と答えた。
「俺らでも知ってる人〜?」
「海賊、とかか?」
冗談のつもりで言ったペンギンの言葉に頷くノエル。全員が驚いた。