第4章 芽生えた気持ち
「ぐぁああぁああああぁぁあ⁉︎」
それだけで、海軍はほぼ全滅してしまった。残っているのは、水晶を持っている者のみ。恐らくだが少佐だろう。ノエルは彼に数歩近付いていく。彼は船の上にいるというのに、大袈裟な程身体を強張らせた。
「その水晶をこちらに向かって投げろ」
「はっ、はいい!」
投げられた水晶は、真っ直ぐとノエルに向かって落ちていく。難無くキャッチした彼女は、慈しむように水晶を胸に抱いた。
「ヒッ!!」
そして彼を睨みつける。少佐は腰が抜け、ヘナヘナと地面に座り込んだ。そんな彼を追い込むかのように、ノエルの背中には2枚の綺麗な翼が生えていた。
ローは指先が動くのを確認し、素早くROOMを展開させ、足元の貝殻を拾った。
「貴方達の行動のせいで、どれだけの人が悲しんだと思ってるの!!」
翼をはためかせだ瞬間、シャンブルズと呟く。飛ぼうとしていた彼女は、ローの腕の中に収まっていた。ノエルは脱出しようと暴れるが
「もういい、もういいんだノエル」
それは、彼が初めて呼んだ彼女の名前。
その言葉に安心して、涙が溢れてきた。そんな彼女を、ローはきつく、きつく抱きしめる。決して、痛くないように壊れ物を愛でるように。
少佐らしき男はもうすでに気を失っていた。片腕でノエルを抱きしめつつ、ローはまたROOMを展開させる。鬼哭を鞘から抜き、軍艦を真っ二つに切ってしまった。
水晶も無くし、船も失った。世界政府も海軍も、もう二度と四季島へ足を踏み入れる事はないだろう。
「ロー…………ロー!!」
「あァ、おれ達はここにいる。だから、好きなだけ泣け。つれェもんは一緒に背負ってやる」
その言葉を聞き、堰を切ったように涙が溢れ出す。ローの服を暖かい雫が濡らしていく。同時に雨が降ってきた。涙が冷え、べしょべしょになった胸元も共に、全身が濡れていった。
ローは構わず、ノエルの身体が冷えないように、また抱きしめ直した。
「私…………この島が大好きだった! なのに、なのに!!」
大切な人達との思い出が詰まった島。それが今では消えてしまった。この想いをどうしたらいいのか、ノエルにはわからない。
「例えモノが消えても、思い出は残ってるだろ。だから、大丈夫だ」
その言葉は、自分自身にも聞かせているようだった。