第4章 芽生えた気持ち
「そんな…………」
まだ燃えている事は知っていた。それでもこれは、酷すぎる。せいぜい小さな火が残っている程度だと思っていた。なのに、現実はゴウゴウと音を立てて燃えているではないか。
船を停泊させ、船員達は島に降り立つ。燃えていない地面を探すだけでも大変な事だった。
「癒しの水(コンソラトゥール・オー……」
その呟きに海水が応じ、何かに持ち上げられるように上がっていく波。それは、島中の火を消し海に戻っていった。
「すげー……」
船員の誰かが呟く。それに同意するように、船員達は頷いた。ノエルはただぼんやりと四季島を見つめている。
(あんなに…………あんなに綺麗だったのに)
その脳裏には、美しかった頃の四季島が映っている。その光景と今の光景を見比べていると、あまりの悲惨さに涙が滲んできた。
「やっと着いたぞー!!! やはり上の予想通り四季姫はこの島にやって来ていたな!」
ハートの海賊団全員が振り返った先には、軍艦があり、海軍が大勢いた。一番偉いであろう人物の手には、一枚の綺麗な羽が入った水晶がある。その羽は四季島を真っ直ぐ指していた。
(なるほど…………そういう事か)
「バスターコールをかけてまで捕まえ、さらには逃げた四季姫を再度捕まえたとあれば俺は出世確実だな! ついでにハートの海賊団も全員インペルダウンにぶち込んでやる! あいつも馬鹿だなぁ、出世の機会を自ら逃すなんてな」
船をサルベージしてこいつを手に入れてよかったぜ。そう言いながら豪快に笑う男。それを見たノエルの中で、何かが変わる音がした。ずっと身体の奥底に眠っていた何かが、開いていくような、音。
「さぁーて、お前ら! 全員捕まえるぞォ!」
「おおおお!」
剣や銃などの武器を高々と掲げる海軍達。バタバタと靴音を響かせて上陸してこようとした瞬間。ノエルが口を開いた。
「動くな!」
海軍はおろか、戦闘態勢をとっていたハートの海賊団ですら動きが止まってしまった。いや、止まったのではない。ノエルの声に従うかのように、体は言う事を聞かない。
「薔薇の女王(レーヌ・ド・ローズ)!」
海軍の方を向いたノエルがひらりと右腕を上げる。すると、薔薇の花びらが大量に、風に乗って海軍の元まで飛んでいく。薔薇の棘も一緒に、だ。