第4章 芽生えた気持ち
「いいか、ノエルちゃん。こんなに遅くなる買い物は、誰かと一緒じゃなきゃダメだからね」
「うん、わかった。今日はありがとう、シャチ、ペンギン。おやすみなさい」
夜も遅く、船員達は寝静まっている。静かに行動し、別れた三人。ノエルは音を立てないように部屋に入る。中は昼のうちに店員が設置してくれた家具が、きちんと並んでいた。
イッカクはすでに眠っている。
「イッカクさん、おやすみなさい」
小さく呟きベッドに潜り込む。案外疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。
一方、今日一日部屋から出ず医学者を読み耽っていたロー。彼もまた、例に漏れず眠っていた。規則正しい寝息を立てながら、何かを探すように手を動かす。意識は半分起きているらしい。
しばらくそうして、掌に何かが触れた。目的のものだと思い、自身の胸へと引き寄せる。ふわりと香る、甘い匂い。抱きしめるが、何故かひんやりとしている。
「…………?」
不思議に思い起きた。見ると、自分が抱きしめていたのは、先程まで使っていた枕だった。ローは深くため息を吐き、枕を戻す。その際また香った甘い香りは、数日前ここで寝ていたノエルの香りだ。
たった二夜。彼女がここで寝たのはそれだけだ。なのに香りが消えない。今日、会話はしていないのだが、夜こうして無意識に彼女を探してしまっている。
その行動が何なのかわからず、ローは不機嫌になる。よくわからない感情を抱いたまま、もう一度眠りにつこうとした。
「ロー」
彼女の声が聞こえた気がした。目を開けて確認するも、当然誰もいない。数日前隣にいた、温もりもない。
「…………何でだよ、クソ」
彼女の香りを、存在を、温もりを、声を、無意識に求めてしまう。そんな自分がよくわからず、イラつく。ぐしゃりと髪を握りしめるように触る。
「…………クソ」
名前を呼ぼうとしたが、呼んでしまえば何かが変わってしまいそうな気がして、辞めた。もう一度悪態を吐いたローは、目を閉じる。
「ロー」
彼女の声が再び聞こえたが、気にせずに眠った。明日になれば、その声が聞けるだろう。
その頃のノエルはと言うと。
「…………ロー……」
夢の中でローに会っていたようだ。その寝顔はとても幸せそうで。お互いに求めあっていた夜だった。