第3章 新しい日常
「俺の背中で不安なら船長の背中に乗ったらどうだ? 安定感あるぞ」
「本当? じゃあローの背中に乗ろうかな」
ローは無言。それを肯定と受け取ったノエルは、恐る恐るペンギンの背中から降りた。
「失礼しまーす……」
意外と広いその背中に驚きつつも、何とかよじ登った。なるほど確かにペンギンの言う通り、安定感がある。
「軽いな」
「訓練にならない?」
「いや、そうじゃねェけど…………ちゃんと食ってんのか?」
その言葉にギクリとするノエル。ここ最近、普通の人から見れば少ないと思われる量の食事しか摂っていない。しかし、一月ほど海軍の船の中で、あまり食べていなかったノエルからしたら、結構な量は食べているのだ。
「食べてるよ? うん…………」
そうぎこちなく言えばため息を吐かれた。何の宣言もなく腕立て伏せを始めるロー。ノエルは驚いて首に手を回した。
「そういえば、初めて会った時もこうやったよね」
それが三日前なんてなー、と呑気に笑うノエル。きゅっとしがみついているため、胸が背中に当たっている。ローは内心の動揺を隠すため、慌てて口を開いた。
「軽すぎる、ちゃんと食え」
「はい……」
その後しばらく会話をしながら腕立て伏せを続けた。ノエルは、運動しているのにまるで息が上がっていない事に、とても感動していた。
「おーい、次はこっち頼めるか?」
「あ、うん、今行く…………わぁっ⁉︎」
足元がフラつき、甲板から落ちかけるノエル。それだけでは済まず、突然の高波が彼女を襲う。能力者は海の前では無力に等しい。為す術なく落ちると思われその時。
「ROOM!!」
「氷華!」
波が凍った瞬間、シャチとノエルの場所が変わった。何が起きたか分からず、ノエルは混乱している。彼女に怪我がないか確認しに行くロー。彼が近づくと、呆然とその顔を見上げ
「この間と同じ…………。それが、ローの能力なの?」
以前薬品を嗅がせた時の話だろう。少しバツが悪そうに顔を背けるロー。
「ああ。おれはオペオペの実を食べた改造自在人間。お前は見たところ氷系統の能力者か?」
先日の風呂場騒動と先程の能力を見て推測したが、ノエルは違うと首を横に振った。