第3章 新しい日常
「私は、シキシキの実を食べた季節自在人間。本気を出せば天候だって変えられるし、星だって降らせられる。世界政府が私を欲しがる理由が、この能力」
その場にいた全員が呆然とした。氷が割れる音とそれが海に落ちる音が、やけに大きく聞こえる。
「政府の本当の狙いはシキシキの実だったらしいんだけど、私が知らずに食べちゃったから。シキシキの実を食べた四季姫。そっちの方が価値高かったみたいだよ」
その場にいた船員達は皆唇を噛み締めたり、拳をキツく握っている。そんな事のために、彼女の故郷を滅ぼしたのか、と。
「四季島は政府が滅ぼした。政府も海軍も大嫌い。だけど、私には帰る場所が出来た。私、みんなに会えて幸せだよ!」
にこりと笑うノエルに、全員が涙ぐんだ。ローでさえ微笑んでいる。
「俺っ! ノエルちゃんの事一生守るから!! 妹みたいで放っとけない!! あと可愛い!」
「わっ、ちょっ、ペンギン! あはは、ありがとう!」
ガバリとノエルに抱きつくペンギン。ずるいぞ、と言わんばかりに続くシャチ。シャチを引き離そうとしつつも、しっかりとノエルを抱きしめるイッカク。その他クルーが続く。
最後にベポが飛びつくと、全員がバランスを崩して甲板に転がった。皆笑っている。その中心にはノエルがいる。
「ロー」
不意に、名前を呼ばれた。離れたところで見ていたローを見て、ノエルは手招きしている。
「ローもこっちおいでよ!」
まるで太陽のように笑うノエルを見て、不思議と自分も笑っていた。それを悟られないように、仕方ないなと言ってノエル達に近付く。
ノエルの手は自分の隣をぽんぽんと叩いている。そこに座ると腕を引っ張られ、床に倒れこんだ。彼女を潰さないように引き寄せると、案外顔が近かった。
どきりと鳴った心音はどちらのものか。慌てて離れる二人。そんな彼らを見たシャチやペンギンは楽しそうに笑っている。
「ここから四季島に行くには、一つの島を経由するよ。潜水したとしても一週間はかかるから」
誤魔化すように言うノエル。いつもより早口なため、動揺しているのは隠せていない。
見上げた青空に手をかざし、一振りする。その手の軌跡の通りに、空に虹がかかった。
また一段と絆が深まった、とある穏やかな日だった。