第3章 新しい日常
ローが説教されている頃ノエルは、船内を走っていた。混乱している状況のため、ひたすらに走っている、と言った方が正しいだろう。
「うおっ⁉︎ シャチてめー……って、ノエルちゃん⁉︎」
「あ、ペンギン……」
前も見ず走っていたノエルはペンギンにぶつかってしまった。最初はシャチかと勘違いしたペンギンだったが、ノエルを見てパッと笑顔になった。
「風呂入ってきたんだな。ってか髪ちゃんと拭けよ」
風呂。その言葉を聞いたノエルはボッと真っ赤になる。そんな彼女の腕を引っ張っていくペンギン。
「拭いてあげるからこっちおいで」
「ありがとう」
ソファに座り、その下にノエルを座らせると、タオルで彼女の髪を拭き始めた。
ここはリビングらしく、周りの船員は微笑ましい目で二人を見つめている。
船員は昨日のうちにノエルの事を聞いていたらしい。どこか嬉しそうな表情だ。
「ちゃんと拭かないと風邪引くぞ」
「ん…………でもめんどくさくて」
「まったく、これからは拭いてあげるよ」
「わーい! ペンギンありがと」
側から見れば仲睦まじい兄妹だ。ここで一つ言っておくと、今のペンギンの発言に下心などまるでない。彼はノエルを妹のように扱っているし、ノエルもまた、それを喜んでいる節がある。
これがシャチだったとしたら、下心しかなかっただろう。
「よし、乾いたぞ」
ありがとうと礼を言うと、気が付いたように口を開くペンギン。
「そういえば所々霜降りてないか?」
「ああ、これ? お風呂入った時にね、傷口を覆っておいたの」
止血効果あるんだよー、とにこやかに笑うノエルに危機感を覚えるペンギン。
「早く手当てしてもらってきなよ⁉︎」
「わかったー、行ってく……わっ⁉︎」
何もないところで転びかけた。ペンギンに助けられる。が、しかし。
「足捻ったー……」
「ドジか!」
そのまま横抱きにされ、医務室に向かわれる。
俗に言うお姫様抱っこ。ここで、もう一度言っておこう。ペンギンに下心など一切ない。シャチなら…………言わずもがな、である。
「ペンギン、私一人で行けるよ?」
「じゃあ医務室どっちだ?」
「…………左?」
「残念右だ」
ドジな上に方向音痴。それが四季姫ことノエルなのだ。