第3章 新しい日常
時は数十分ほど前に遡る。
自室に戻ったローは、本を読みつつもノエルの事が気になっていた。
(アイツ…………着替えはあるのか?)
風呂場にタオルはあるが、彼女の着替えがあるとは思えない。そしてイッカクのあの様子では、ノエルに着替えを貸しているとも思えない。
仕方ないと言わんばかりにため息を吐き、本を閉じクローゼットを漁る。やがて黒いパーカーを見つけたため、それを手にして風呂場に向かった。
女の風呂は長い、と勝手に思い込み扉を開ける。誰もいないと思っていたそこには、裸の彼女がいた。
ローは固まった。そして……見惚れていた。
風呂上がりの上気した頬、濡れて艶のある髪。しっとりとした肌。溶けてしまいそうな程に潤んだ、アメジストのような瞳。
何より、大きすぎず小さすぎず、程よく育った…………
「聖氷剣!!」
「ぐぶふぉっ⁉︎」
そこまで考えていた時、ローの体を衝撃が襲った。次いで壁に激突する背中。
手から離れたパーカー。それを急いで着て逃げるノエル。
全てがスローモーションのように見えた。
気が付いた時、自分はイッカクに説教されていた。
「ノエルちゃんに着替え渡すの忘れてた私もちょっと悪いですけど、女の子のお風呂覗く方が100パーセント悪いですからね!! 万死に値しますよ!!」
別に覗こうとしてたわけじゃねぇ。そう言うと、せめてノックぐらいしてください! と返ってきた。
流石のローも、何も言い返せない。
それにしても何故彼女の身体に見惚れていたのか。女の裸など見慣れているつもりだった。それなのに見惚れてしまっていたのだ。自分でも、気付かぬうちに。
「もうっ、聞いてます⁉︎ キャプテン!」
ローは聞いてなどいなかった。むしろ
(何なんだよクソ…………あいつが来てから、こんな変な気持ちばっかりだ)
などと考えていた。イッカクの言葉など、もう耳には入ってこない。ローはぼんやりとノエルが走って行った方向を見つめている。
何を言っても無駄だと悟ったのか、イッカクは呆れ顔で去っていった。それにすら気付かずに、ローはただただぼーっとしていた。
その顔は赤く染まっている。ローはこの気持ちが何なのかわからず、ただただ戸惑うばかりだった。