第12章 ただいま
何かの夢を見ていた気がする。ふと目を開けると、その内容は忘れてしまった。
起き上がろうとすると、ぐらりと視界が回った。気が付けば天井を見つめていた。
「あれ、起きてるー! 目ェ覚めたんだね! よかったー、心配してたんだよー」
薄い茶髪の女が部屋に入ってきた。薄暗かった室内が、彼女が入ってきた事により電気がつけられ、明るくなった。
「あの…………?」
掠れた声では言いたい事が声に出てくれない。やっとの思いで絞り出したのは、とても言葉とは思えないような声。
しかし彼女は聞き取って、こちらの言いたい事まで悟ってくれたらしい。
「私はコアラって言います。ノエルちゃん、でしょ? サボ君から話は聞いてるよ〜。
ノエルちゃんね、あのあと倒れて熱出しちゃったんだよ。だから空いてたこの部屋に運んで、ずっと看病してたんだ」
申し訳なさと感謝の気持ちがいっぱいになり、起き上がろうとするも、やはりぐらつく視界。
ベッドに倒れ込むノエルを、慌ててコアラが支えてやった。
「まだ無理しちゃ駄目だよ! だいぶ下がってはきたけど、まだ高いんだから! お腹空いてる? 食べられそうなら、何か作ってきてもらうよ?」
その言葉に、ノエルはまだいいかな、ありがとう、と答えた。
「もう少しだけ休ませてもらうね、一眠りしたら何か食べさせてもらおうかな」
「うん、わかった。サボ君にも言っておくね!」
ごめん、と心の中でコアラに謝りながらノエルは目を閉じた。
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「ノエル」
誰かに名前を呼ばれて振り返った。そこには、空いたくて空いたくて仕方のなかった人がいた。
「ロー…………!」
走って彼に飛びついていくと、ぎゅうっと抱きしめてくれた。
これは夢だと、わかっていても抱きつかずにはいられなかった。
「ロー、大好き、ロー…………」
「おれも好きだ、ノエル…………だから、だから早く、帰ってこい」
「待っててくれてる?」
「当たり前だろ」
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やがて夢は覚めてしまった。けれど、どうしても夢とは思えなかった。
空いたくて、涙が溢れた。ノエルは静かにただただ枕を濡らしていた。
同時刻。ローが同じ夢を見ていた事も知らずに。