第10章 思わぬ人達との再会
「わ、早い!」
空を自由に飛んでいたノエルは、自身が出しているそのスピードに驚いた。
翼を一度はためかせるだけで、島一つ分以上の距離を飛んでいるのだ。
「訓練すれば実戦に使えそ…………ん? 何あの赤い壁……………………ああ、赤い大陸(レッドライン)か」
確か、天竜人の聖地、マリージョアがある所。そう考えた瞬間、ノエルの心にフッと悪戯心が芽生えた。
(マリージョアの真上飛んでってみよー)
大きく方向転換し、大きな建物がある方向へ飛んでいく。
「あれが…………聖地マリージョア」
興味深そうにマリージョアを見渡しながら飛んでいると、下の方から人の声が聞こえてきた。
「見るえレークス!! ハーピーだえ! ハーピーが飛んでるえ! わちし、あれ欲しいえー!」
「! はははっ。チャルロス、それは我らでも無理な話だな。ここでごちゃごちゃやってる間に、あの天使は行ってしまうだろう」
「わちしらは天竜人なんだえ⁉︎ 手にできないものなんてないんだえー!!」
「あれはそういう次元を超えたものなのだろうよ」
その会話を聞きながら、ノエルは奇妙な感覚に襲われていた。
天竜人とは欲しいものは必ず手に入れる。どのような手を使ってでも。
それなのに、今の天竜人は遠回しに諦めろと言ったのだ。それが不思議でたまらなかったが、ノエルは気にせず、マリージョアを飛び去った。
「彼女だけは絶対に、我らでも捕らえられない本物なのさ」
レークス、と呼ばれた天竜人がそう呟いたのだが、ノエルはそれを知らずに、シャボンディ諸島まで向かっていった。
彼が一体どんな顔でその言葉を言ったのか、どんな意味があったのか、彼以外知る由もない。
「いっつもお前は変だけど、今日はいつにも増して変だえ」
「ははは、変……か。まァ、お前達からしたら変なのだろうな」
にこにことしながらそう言う。この男は、いつも何を考えているかわからない。だからこそ恐ろしい。
それは、どの天竜人も考えている事。
奴隷も持たず、妻も持たず、金の使い方が荒い訳でもない。
「ほらいくぞ、君の可愛い妹が待っている」
「そうだったえ!! いくえ、レークス!」
チャルロスについていきながら、レークスはノエルが飛んで行った宙をいつまでも見つめていた。