第1章 出会い
太宰たちの控え室に叩敲が響く。
宝条は中也の前に立ってネクタイに触れながら入室を許可する。
現れたのは執事だった。
「旦那様。間もなくお時間です」
「もうそんな時間か。いやぁ、このタイピンが私のイメージ通りの仕事をしていないんだよ」
タイピンの位置をずらしたり、外して他の装飾品と並べたりしながら難しい顔で云う宝条氏。
「左様で御座いましたか。今すぐに別のものをお持ち致しましょうか?」
「そうしてくれるかい?」
執事は一礼すると退室していく。
反応から見るに、この様な事は日常茶飯事のようだ。
執事が去っていった扉を見ながら太宰は思考を巡らせる。
直ぐに執事が戻り、先程までなかった長方形のケースを開けて宝条氏が見える位置に差し出す。
一応、太宰も興味のあるフリをしてケースのそばに行き、中を見る。
あ。
「此れがいい!君と、私のイメェジと両方を引き立たせる!!」
太宰が思わず目を奪われたタイピンを宝条氏は手にとり、中也のネクタイに留めた。
ジーッと見て位置を微調整し、納得いった位置で大きく頷く。
最初に身に付けていたタイピンと大きさも形も、金色が基調ということも変わらないのだが填まっている石の色が違った。
最初に填まっていた石は透明感の無い濃い赤色をしていたが、今は黄金色とも青色とも見える色が輝いている。
「色が変わる石ですか?」
思わず太宰が問うと宝条氏は満足そうな笑みを浮かべたまま頷く。
「琥珀の一種でね。太陽の光を浴びると青色にも見える石だよ。君達の服のテーマは『黄昏』と『暁』だから色が変わるアクセントはテーマにピッタリ………そうだ。君にピッタリの石もあった!昨日出来たばかりの…………此れだっ!まさに君に相応しい!」
おおはしゃぎで太宰のタイピンも変える。
太宰のタイピンも中也同様に、填まっている石が違うだけだと思うが、涼しげな赤色に見えた石は一瞬、青みを帯びた色にも見えた。
「!」
「此れもずっと赤っぽく見えていただろうけど、太陽の下では涼しげな青色の石なんだよ」
宝条氏が離れると石は赤色に輝く。
外したタイピンを丁寧にクロスで拭いて箱に戻しながら宝条氏は説明してくれた。
主人が完璧な出来だと満足していることを確認して、執事は改めて時間を告げたのだった。