第1章 出会い
休憩を終えてパーティ会場に戻るときだった。
「……。」
ジーッと柱の影から見られている……。
隠す気のない視線に気付いて立ち止まり振り返った中也の目に入ったのは、先程パーティ前に部屋に這入ってきた少女だった。唯一違うのは深緑色のパーティドレスに着替えた、というところだろう。
この気配が先程の庭から付いてきている事を察するに庭で逃げた少女とも同一人物なのだろう。
「はっ!?」
中也が振り返ったことで尾行がバレたことに気付いた少女は再び物陰に隠れた。
が、隠れれば気付いてないと思ったのか。ジーッと(本人は)こっそり見続ける。
何なんだァ?一体……
そう思いつつも設定もある上、同じ年くらいだからという興味からだろう、という推測を打ち立てた中也は一息吐くとそのまま会場へと向かったのだった。
「お戻りですか」
「!」
一番に話し掛けてきたのは宝条氏の執事だった。
コクリと頷くと執事は続ける。
「会話はこうして成立しているのに話せないないなんて妙ですね。言葉は理解できているというのに」
「……。」
「本当は話せるのでは?」
「……。」
中也が黙っていた、その時だった。
「病気で声帯を取ってしまったんですよ。だから言葉は理解できるけれど会話が出来ないのです」
「!?」
「!」
現れたのは満面な笑みを浮かべた太宰だった。
「私達は従兄弟だから一緒に仕事を受けることが多いので、私が話せれば困らないのですよ」
「……そうですか。失礼致しました」
そう云うと執事は一礼してその場を去っていった。
その後ろ姿を一通り見届けた後、中也は太宰の顔をチラリと見る。
成る程、そういうことかよ。
執事の姿が全く見えなくなったというのに、完璧に作った笑顔を絶やさない太宰。
先程まで執事が居た空間の方を見つめるその眼は、
一切笑っていなかったーーー