第1章 出会い
「………既に敵地に入った状態ですが」
「おや。森君から聞いていないのかな?」
その言葉を聞いて、少し考える太宰。
そして直ぐに答えを導きだす。
「ーーー異能、ですか」
「ふふ。聡い子を派遣する云われていたがここまでとは。森君は部下に恵まれて羨ましい」
そう笑いながら云う宝条氏。
太宰は肩を竦めると中也に目配せをした。
「流石、首領の友人ですね」
「そうかな?嬉しい限りだよ」
「……本当に大丈夫なのか?」
中也はコソッと太宰に聞く。
「『私の居る空間の生を無の状態にできる』んだ。だから安心して話すと良い」
「生を無……?」
「人の気配や声、物音を消せるってことでしょ」
「おお!またもや正解だ」
ニコッと笑って誉める宝条氏の顔には嘘が含まれていなかった。
故に、慣れていない反応をされてフイッと目を反らす。
そんな太宰を放って中也は遠慮無しに質問することにした。
「今回のパーティー会場は4つ設けてあるって聞いていますが」
「そうそう。と云っても1つは勿論、パーティー会場。そして『控え室』と『商談室』、『商品置き場』だ」
「……『商品置き場』ですか」
「交友関係を広げるだけでなく、商談も目的として居るからね。サンプル程度の物を持ち込んでいるんだ。私みたいに宝石や服程度ならそんなに場所を取らないが骨董家具や美術品は大きいものが多いからね」
「盗難の可能性は」
「零だよ。一応、セキュリティは万全だし警備も厳重。しかし、断言できる一番の理由は、此所にある程度の物を得たところで生活が変わるような人間は参加していないという点だね」
此処で太宰が何時も通りに戻る。
「成る程。名誉の傷の修復は難しいですからね。そうなると一番大きい会場は『商品置き場』ですか?」
「そうだね、と云いたいところだけど『商談室』が一番の面積がある」
「「!」」
そういうと、宝条氏は懐から紙を取り出した。
ーーー間取り図だ。
「此方が一階。君達が居る控え室が此処で、この階段から向こう側凡てが『商談室』だ。入り口は一ヵ所。階段の脇にある扉だ。見ての通り、入って直ぐに共同スペースがあり、奥に個室がズラリと並んでいる」
「カメラの類いは」
「共同スペースにはあるが個室には設置していない」
大事な商談だ、当然か。
と納得する太宰。