第1章 出会い
「でけえ屋敷だな」
部屋に備え付けられたソファに、どかりと座りながら中也も部屋の中を見渡す。
「此処は催事の時しか使用しない別荘なんだって」
「うげぇ……これだから金持ちは」
「世界展開しているブランド会社の社長だもの。支援者や後援者は山のように居るでしょ」
「まあ、確かに服のセンスは良いな」
そう云って中也は着ているジャケットを見ながら云った。
『誰彼構わず喧嘩を始めそうな赤の人』ーーー中也のことを指しているだろう箱に入っていたのは『赤』を基調とした服だった。
ダークレッドとグレイッシュレッドとで構成された千鳥柄のスーツ。
黒で縁取られた襟やポケットがアクセントになっているスーツに合わされたブラウスは原色の赤だというのに、光沢の効いている生地のお陰で柄が激しく主張していないスーツをより引き立たせている。
唯一反対色のダークネイビーのネクタイも良く合っていた。
嫌がっていた太宰も悪くないと思わずポロリと出るほどだ。そういう太宰ーーー『生きること事態が億劫そうな黒の人』と題した箱に入っていた服は黒に近いが『青』。
恐らく対で作られたのだろう。
柄や生地は全く同じだが、色は黒に近い青。ブラウスはネイビーと凡てが落ち着きある色で纏まっているが、中也のスーツにあった縁取りはない。
その代わりなのだろう。
ワインレッドの生地にネイビーが乗ったチェック柄のネクタイがアクセントになっている。
「派手すぎずに纏まっていて装飾品も映えるーーー装飾も服飾も同時にアピールするなんて中々の策士だねえ」
自身が身に付けているタイピンや腕時計、カフスや指輪をみて太宰は感心したように云った。
太宰は銀、中也は金を基調にした装飾品を身に付けている。太宰の云う通り、服に比べればとても小さいうえシンプルなデザインのモノだけれど存在感は非常に大きかった。
「新たなブランドってことは新規のデザイナーを雇ったってことかよ」
「そうだろうねえ。でないと今あるブランドと差別化を図れないもの」
「確かにな」
「なぁに?中也。気に入ったの?」
「………まぁ。」
誤魔化さずに返事した中也に少し驚くも、太宰も否定はしなかった。少なくとも首領が選ぶような服よりは、と内心で呟いたのだった。