crazy for you.【進撃の巨人/ハンジ・ゾエ】
第1章 煤まみれの少女
「身寄りがないって言うんなら
君の場合、開拓地か兵役につくべきだ。
・・・可哀想だけどね」
女性は眉をひそめると
アウラの横を通り過ぎていく。
「そうすれば・・・・・・
こんなものも使わなくてよくなる」
「っ!」
アウラは自分の腰を見る。
短剣が無くなっていた。
その代わり、目の前の女性がその短剣を持っている。
「返せ!」
「それはできないね。
これで私を襲うかもしれないだろ?」
パンと交換だ。と
女性は鼻で笑う。
「真っ当な人間になったら返してあげるよ。
そうしたら、会いにおいで」
短剣を胸にしまうと女性は颯爽と歩き出した。
自分の名前だけを言い残して。
アウラはただその後ろ姿を見つめていた。
「・・・・・・名前だけで、
どうやって会いに行けって言うんだ」
アウラは舌打ちをすると
パンにかぶりついた。
変なやつだ。
憲兵に突き出すこともできただろうに。
だがもう会うことは無いだろう。
アウラは茶褐色の髪と眼鏡の奥から除く
同じ色の瞳を思い出した。
「会いにおいで。
私の名前はーーハンジ・ゾエ。」