crazy for you.【進撃の巨人/ハンジ・ゾエ】
第1章 煤まみれの少女
目の前の女性は腰に手を当てると
身につけている眼鏡に手を添える。
スラリと伸びた身体がアウラを見下ろした。
相当怒っているのだろう、
その迫力は凄まじくアウラは生唾を飲み込むとそっと腰の短剣に手を添えた。
やるしかない。
トロそうだと思ったから狙ったのに。
今回は失敗だ。
捕まるくらいならここで仕留めよう。
目の前の人物を睨みつけると
眼鏡をかけ髪を無造作に束ねた長身の女性は大きく溜息を吐いた。
「今なら許してあげるよ」
右手をアウラの目の前に差し出す。
これは“ 返せ ”という意味だろう。
アウラはパンを握りしめた。
「これは、返せない。
大体盗まれるようなあんたが悪いだろ」
「なっ」
彼女は不愉快そうな表情を浮かべる。
「困った子供だな。君、煤だらけじゃないか。
両親は?」
「居ない。第一、私は大人だ」
彼女は再び溜息を吐いた。