crazy for you.【進撃の巨人/ハンジ・ゾエ】
第1章 煤まみれの少女
「雨が降りそうだな・・・・・・」
不思議な女性に出会ってから数時間後
日は沈みかけていた。
そろそろ今夜の寝床を探さなくては。
帰る家もないアウラにとって毎日を生きることが精一杯だ。
あの女性には申し訳ないが
開拓地にも兵団にもアウラは行くつもりがない。
あの日、
シガンシナ区に住んでいたアウラは
マリア陥落時に家族以外の全てを失った。
肉親が生きていただけでも
まだ恵まれていた方だとは思う。
だが、開拓地では唯一の家族であった両親が
マリア奪還作戦に駆り出され帰ってこなかった。
その報を聞いたのは
アウラが訓練兵団にいた時だった。
行政から送られてくる業務連絡的な文書。
もちろん、そんな判断を降した王にも兵団にも
アウラは仕えたくなくなった。
今ではただなんの意味もなく壁の中を
こそこそと這いずり回る日々だ。
希望もなければ何かを成し遂げたい野望もない。
だが、腹は減るし夜になれば眠たくなる。
その場その場の欲求を満たしながら
過ぎ去る日々を見送る毎日だ。
アウラはそこまで考えると
虚しくなり溜息を吐いた。
今までもそうしてきたのだから
これからもそうして生きていくだけだ。
アウラは路地にある雨風が凌げそうな
場所を見つけると座り込んだ。
両膝を抱え込むとマントのフードを深く被る。
今日はここで眠ろう。
瞼を閉じるとゆっくり眠りに落ちて行った。