crazy for you.【進撃の巨人/ハンジ・ゾエ】
第1章 煤まみれの少女
「くそ・・・・・・っ」
「こらあ!」
薄汚いマントとも言えないような
布切れを羽織った影が雑踏の中を
器用に走り抜けていく。
その後ろから、それを追いかけるのは
長身の女性。
思ったよりもしつこい。
アウラは片手に抱えたパンを強く握り、
舌打ちをすると近くにあった路地に走り込む。
アウラがパンをくすねた長身の女性も
器用に雑踏をかき分け
しっかりと背後についている。
「・・・もうっ、しつこいな・・・」
盗む相手を間違えたかもしれない。
だが、捕まれば拷問の後開拓地行きだ。
後悔が心中を占めたが逃げ切ることに必死になるしかなかった。
細い路地を右へ左へ無茶苦茶に走り回る。
どこまで走り続けているのか分からなくなった時、
背後に女性の姿は見えなくなっていた。
アウラは立ち止まると歓喜の声を上げる。
「へへっ、ざまあみろって」
「何がざまあみろだって?」
ぬっと背後から先ほどの女性が現れる。
「ひっ!」
アウラは即座に飛び退くと
女性との距離をとった。