第1章 あの頃
「おい芋女...まさか明日行かないなんて言い出すんじゃねぇだろうな?」
ジャンの探るような言葉に、見事にサシャが固まる。
「あの日のエレンの親父さんを知る、たった一人の人間だ!大事なことが分かるかもしれねぇんだぞ...」
「そっそれは分かってますよ!でも!...でも教官に会う、のはっ!」
「あのなぁ...」
ジャンは、頑なにキースとの面会を拒むサシャに、飽き飽きしている様子だ。彼女にとって訓練兵時代のことは相当なダメージだったのだろう。
「いいか?超大型が襲来したあの日、エレンの親父さんが何をしていたか、それが分かるかもしれねぇんだぞ!お前の勝手な都合でどうこうできる話じゃねぇ!」
「うぅ...イヤや!えじぃーがな!おていまたおごられるがな!はらがいて、じきこずかれちまうが!」
「いや、何言ってっか全然わかんねぇよ...」
初日に頭突きを食らわされただけでなく、あの後5時間走らされたのだ。いや、夕食抜きとも言われた時の方が悲痛な顔をしていたが。
「サシャ...仕方ないよ。でも、もう3ヶ月も経ってるんだ。教官も今更厳しくしたりするはずないさ!」
アルミンが優しくフォローに入るが、ちらりと顔を上げただけでまた駄々をこね始める。
「つぁーらん!また腹かくのいやや!なしおうのいかん?しとねぇ!!」
「サシャ...」
「...取り敢えず、俺エルヴィン団長たちに報告に行ってくる」
エレンがここは任せたとばかりに立ち上がり、椅子をしまう。ジャンが恨めしそうな顔でエレンを睨んだが、ため息を吐いてなんだかんだ全員が、サシャの説得に励むのだった。