第2章 腹筋
昼下がりの兵舎の廊下を歩きながら、アルミンはふと昔のことを思い出していた。
__子供の頃からいつもミカサとエレンと僕の3人でいた。街のいじめっ子たちによくいじめられていた僕を二人はよく助けてくれて、そんな二人の背中をいつも見ていたっけ。
勇気と、何度でも立ち上がる強い心を持つエレン。圧倒的な力で、大人でさえ慄(おのの)かせるミカサ。そんな二人がいたから、正直僕は心強かった。それは今でもそう。戦闘中、隣に二人の姿があると何だか安心する。
...だけど、いつまでも仲良し3人のお荷物みたいな存在じゃ嫌なんだ。僕だって戦える力がほしい。前を切り裂いて進んでいく二人の背中を見るんじゃなくて、二人と並んで同じ景色を見たい。
でも僕は___
「アルミン?」
前からふと自分を呼ぶ声がして、アルミンは顔を上げた。
「...ミカサ。お疲れ様、トレーニングの途中だった?」
ミカサはいつもの兵服ではなく、トレーニング着に着替えていた。暑そうに汗を拭うミカサの腕の筋肉は、本当に女性かと疑うほどにしっかりしている。
「いや、丁度終わったところ。アルミンこそ何を考えていたの?随分暗く見えた...」
小さい頃から一緒にいるミカサに誤魔化しは効かないな、とアルミンは苦笑した。
「僕もさっきトレーニングしてたんだけど、なかなか腹筋がつかなくてね...少し休憩中だよ」
「そう...最近エレンも筋トレに励んでいる。なにか理由があるの?」
ミカサが真剣な目つきでアルミンを見つめる。
「理由ってわけでもないんだけど...腹筋を割ろうっていうのが僕たちの中でちょっとした流行りでね。頑張ってるよ、エレン。結構前より割れてきたように思えるし」
「......見てくる」
そう一言だけ言うと、ミカサは競歩並みのスピードでずんずんと奥の部屋へ進んでいった。
そんなミカサを見送りながらアルミンは再び歩き出す。
女性であるミカサはなぜあんなにも屈強な体を作れるのか。ミカサやエレンと同じ量の筋トレをしても、僕の場合ではその効果がもはや10分の1ほどになっているのではないか。
「いや、ただ僕に力がないだけだ...」
一人心の声をこぼすと、前の方から鼻歌とキラッと光に反射するメガネが見えた。高く結わえられた髪、中性的な声...
「おや、アルミン!」
そう、ハンジである。
