第1章 あの頃
彼の部下として過ごしてきたアルミンにとって、リヴァイとは兵士から尊敬され、また恐れられる存在であった。ぶっきらぼうなその態度からは、優しいなどという言葉は出ない。勿論、彼の本質を知れば、部下を想う気持ちが誰よりも強いことが分かる。
だが、不器用な性格ゆえ、それが表に出ることはまずない。後から振り返って、「あぁ、あれはそういうことだったのか」と理解できるのだ。
そんなリヴァイがこうもあからさまに、優しくするだろうか。
「おかしい、何か兵長なりの企み...いや、考えがあるのかもしれない...」とアルミンは頭の中で探っていた。
サシャはそんなことをアルミンが考えてるとは露知らず、キースのもとに行かなくていいという言葉に、ひたすら歓喜している。目に涙を浮かべるほど。
「兵長!ありがとうございます!本当に心が楽になりました...あぁ、本当に!!」
「そうか、それはよかった。...あぁ、これとは関係ないが一つお前に言っておくことがあった」
「なんでしょう...?」
アルミンがちらりとリヴァイを見る、「来た!」というように。
「これは他の兵士にはまだ知らされていないことだ。だからここにいる奴だけで留めてほしいんだが...、ウォールマリア奪還の前夜、作戦に参加する勇気ある兵士たちの夕食には肉が出るそうだ」
「...えっ!?」
「王都で働くどっかの兵団と違って、調査兵団は贅沢できねぇ。だから肉なんて滅多に出ないよなぁ...?それが食えるらしいぞ、サシャ」
リヴァイの言葉にサシャのみならず、その場の全員が驚き、そして喜悦した。
調査兵団の食事に魚は出るが、肉はほとんどと言っていいほど出ない。出るとしてもスープに小さく切り刻まれたものが少し入っているくらいだ。
土地の少ないウォールローゼでは、肉は高級食材である。それが夕食に出るだなんて。
「...肉や、肉が...食べれるっ!!!」
「すげぇぞサシャ!夢に見た肉だ!」
「そういやあの日、お前上官の食料庫から肉盗んでたよな!」
エレンやジャンも喜びの声を上げた。サシャの黒歴史をまた一つ掘り起こしたが。
「ただ」
肉だ肉だと喜び立てるサシャたちに、リヴァイが語気を強めて一言放った。
一同がぱっとリヴァイを見る。