第9章 最後までしてないから
「なかなか興味深いですね、あの松田が…」
顎に手を当ててふんふんとひとり納得していた
陣平は安室さんが入ってきたことによって何か言いたそうだったけど言葉を飲み込んだ
「すみません、ちょっとコイツ借りますね」
安室さんと陣平が私から距離を取り話し始めた
訳がわからなくなってぐちゃぐちゃでその場に座り込み膝を抱えて涙で濡れた顔を隠した
しばらくして安室さんがお待たせしましたと声をかけてくれた
辺りを見回しても陣平はもういなかった
安室さんが手を差し伸べてくれて立たせてくれる
「松田なら帰らせました、僕達もいきましょうか」
「え?どこに?」
「僕の家です。松田にはあなたを預かるとちゃんと言ってますから」
安室さんの行動にもさっぱりついていけず、流されるままに安室さんの家にお邪魔することになる
家の前まで来ると本当にいいのだろうかと躊躇していると安室さんに笑われてしまった
「安心してください、中に僕の同居人もいますから、二人っきりではありまさんよ?」
「い、いえ…」
「どうぞ、入ってください」
「おかえりー」
扉を開けるとすぐに声がした
「ただいま、ヒロ」
「んー?誰だこの子」
「こんばんは、突然お邪魔しちゃってごめんなさい」
「それは全然いいんだけど、珍しいな
ゼロが女の子連れて帰ってくるなんて」
スラッとした少しつり目でお髭を蓄えているヒロと呼ばれた人はクスクス笑っている
「松田と萩原の友人のさんだ
さん、あがって」
「お邪魔します」
松田と萩原か、懐かしいなとヒロと呼ばれた男性が寂しそうに笑っていた
適当に座ってと言われたので端っこにちょこんと座る
やっぱりよく知らない人のおうちって緊張しちゃう
カランとグラスに氷があたる音がする
「はい、どうぞ
松田が飲める口だって言ってたから」
グラスを受け取ると香りでスコッチだと分かった
「いただきます」
ヒロさんがじーっと私を見ている
「な、なにか…」
「あ、ごめんね、やっぱりあの時の子でしょ?
俺たち1度会ってるよ」