第8章 誠凛vs秀徳
さやと笠松はそっと離れると
どちらかともなく笑い合った。
(幸せ…っつか
なんか色々とやべぇな)
「あ、涼太。連絡しないと」
「そうだな…
途中から完全に忘れてたわ」
ふいに黄瀬のあの苦しそうな顔が思い浮かぶ
キスしたり抱き締めてしまった罪悪感が
ざわざわと胸の奥を揺らす
(まだちゃんと好きかどうかなんてわかんねぇ
でも
泣いてるさやの傍にも居られないような奴に
渡す気はなくなっちまったな…)
笠松は傘をさす手をぎゅと握り締めると
そう思い直した。
「近くのお好み焼き屋さんにいるみたいですね
行きましょうか」
「おう。」
*
お好み焼き屋に着くと
黄瀬は少し寂しそうな顔でお好み焼きをつついていた。
「ごめんなさい。お待たせ」
「さやっち…もう大丈夫なんすか?」
「ええ。いい先輩ね涼太」
ふわりと笑うさやに黄瀬は
一瞬顔を歪める
きっと笠松先輩の前で泣いたんだ
俺には何も、出来ないのに…
黄瀬は精一杯笑ってさやを見つめた
笑わなきゃと思った。
顔を歪めたのは、さやの方だった。
徐々に泣きそうな顔になっていき
耐えきれなくなったさやは黄瀬の胸に飛び込んだ
突然の事に少しよろける黄瀬は
それでもしっかりさやを受け止めた
「涼太、本当にごめんなさい
あなたの前で…弱い所見せられなくて…
でももし…次私が辛く、なったら…
今度はっ…涼太が私を追いかけてくれる…?」
「さやっち…いいんすか…?
俺が、追いかけても…」
「あなたが好きだもの
あなたの前でも私は、私で居たいわ」
きっと無理だろう と黄瀬もさやもわかっていた。
それでもその気持ちが嬉しくて
黄瀬はぎゅうっとさやを抱き締めた