第5章 IH前
*
「ありがとう。もう大丈夫よ」
「そーかよ」
何分そうしていただろうか
辺りはもう暗くなっていた。
青峰はそっとさやを離すと立ち上がった。
固まった体をほぐすように肩を回す。
「しょーがねーから、送って行くわ」
「え?」
「何度も言わせんじゃねーよバァカ」
ぶっきらぼうに手を差し出す青峰
愛しい。温かい。
いつも皆に思う。
この気持ちが全て届けばいいのに と。
さやは青峰の手をとると、引き寄せた。
「おわっ…バカ!なにすんっ!」
「んっ…」
よろける青峰に深いキスをする。
触れて、絡めて、音が出る程いやらしく。
青峰が欲しくて、たまらなかった。
離れていた分を取り戻す様に
深く愛して欲しかった。
「(こっちは必死に、我慢してやってんのにっ…!)」
理性ギリギリもいいとこだ。
ずっと触れたかった唇がここにあって
俺が欲しいと、寄せる身体が叫んでいる。
青峰も貪るようにキスに応える。
2人の舌が絡め合い快感を高めていく。
もっと、したい
いつまでもこのまま
ゆっくりと離れた唇からは
銀色の糸がキスの余韻を繋いでいた。
「…寮、来いよ」
「…!…ごめん、行けないわ…」
「んだそれ…わっかんねーな
…じゃああれだ、俺ん家」
行ったらいけない
折角会わないように会わないように
我慢してきたのに。
繋がってしまったら… 戻れない。
後ろ手にぎゅっと自分の腕を掴んで
伸ばしたくなる気持ちを押し殺した。
ここで苦しい顔をしてはいけない
私はいつもの
我儘な、女王様でいなくちゃ ……。
「慰めてくれてありがとう
でも、いまはあなたの番じゃない。またね、大輝」
「っ…おい…」
さやはいつも妖艶な笑みを浮かべ
駅の方へ向かうふりをしながらアパートへ帰った。
残された青峰の切なげな声も聞こえなかった事にして