第5章 IH前
いまだって、ほら
顔が険しくなって視線を下に落としてる。
いつもの我儘ならもう縋ってくるはずなのに。
私に何かあった時だけ
意地を張って、恐怖を抑え
こうやって私が話すのを待っている。
「大輝…どうして貴方はいつもそうなの?」
「何がだよ」
こてんと青峰の肩にもたれるようにして寄りかかった。
青峰はさやの頭を
不器用に精一杯優しく撫でた。
*
青峰side
「大輝はいつも私に優しい」
なにが優しいだよ
俺は全然優しくなんかねえ
今だって嫌がるお前をここに連れてきて
無理矢理俺の傍に置いてる
これのどこが一体優しさだってんだ
「…なんで逃げた」
「……。」
「ただの…いつもみてーな"順番"じゃねんだろ?」
結局俺はこいつに優しいなんて言われちまうと
押し倒して全部聞き出して
俺のもんにしちまいたい衝動を抑えるしかなくなる
出来るだけ優しく
綺麗な艶のある赤みがかった黒髪を
切れてしまわないように
壊してしまわないように
触れて
さやの心を甘く溶かせるように
「言えないわ大輝…。」
「俺が、嫌になったんだろ…」
「違う!それは、本当に違う…。」
さやがぎゅっと俺の服を握りしめる。
寒くもねーのに、震えていて。
あー、もう!!
「悪かった…
セコい手で聞き出そうとした…」
「っ…!」
強く抱き締めて
お前の不安がどっかいっちまえばいいって
らしくもねー事考えて。
ぎゅっとしがみついてくるさやが
しばらく離れていたってのに
愛おしくて
….らしくねー。