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リンゴ

第5章 IH前






「って事は俺にもチャンスあったりー…する?」



俺はついそう言っちまった。


さやちゃんの小さい手をとって
わざわざこっち向かせて


こんなんしたら冗談なんて言えなくなるってのに


さやちゃんは
握られた手も振り払わずぎゅっと握り返してくれた。



「高尾くんが私を本気で愛してくれれば
私も、それに応えるわ」


「っ…!ま、まじか」


「ええ、私貴方を気に入ったの」


(ちっせー手が可愛いくて
澄んだ目が切なくなる程綺麗で

俺、本気でハマっちまうかも…。)










「ここでいいわ。
高尾くんありがとう。」



ざわざわとする駅前の噴水広場で
さやは高尾にそう告げた。

高尾は少し寂しそうにしながら笑った。



「ん。わかった
俺がいなくても誰かに連れてかれないでよ?」


「ふふふっ連れてかれないわよ
また会いましょう」



高尾といるとさやはよく笑った。

妖しげな男を落とす笑みじゃなく
純粋に楽しんで、笑っていた。



(こんなに笑ったのは本当いつぶり、かしら
あの事が、ある前…。

それから私は……。)



高尾と別れ、少しベンチに座り
噴水を眺めた。


早く帰らなければと思う一方

考え事を始めてしまった頭は、体を動かそうとしない。



「……さや?」


「え?…!…大輝…!」


声のした方を見ると桐皇のジャージを着た青峰がいた。

まずい そう思った。

なのに目を離せない。


青峰の吊りあがった目が驚き見開き

さやを見つめていた。




時間が止まったようだ。


周りは動きを止めていないのに


青峰とさやの間だけ


すっぽり時間が抜け落ち


遠い青峰の熱がさやに伝わる







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