第5章 IH前
「って事は俺にもチャンスあったりー…する?」
俺はついそう言っちまった。
さやちゃんの小さい手をとって
わざわざこっち向かせて
こんなんしたら冗談なんて言えなくなるってのに
さやちゃんは
握られた手も振り払わずぎゅっと握り返してくれた。
「高尾くんが私を本気で愛してくれれば
私も、それに応えるわ」
「っ…!ま、まじか」
「ええ、私貴方を気に入ったの」
(ちっせー手が可愛いくて
澄んだ目が切なくなる程綺麗で
俺、本気でハマっちまうかも…。)
*
「ここでいいわ。
高尾くんありがとう。」
ざわざわとする駅前の噴水広場で
さやは高尾にそう告げた。
高尾は少し寂しそうにしながら笑った。
「ん。わかった
俺がいなくても誰かに連れてかれないでよ?」
「ふふふっ連れてかれないわよ
また会いましょう」
高尾といるとさやはよく笑った。
妖しげな男を落とす笑みじゃなく
純粋に楽しんで、笑っていた。
(こんなに笑ったのは本当いつぶり、かしら
あの事が、ある前…。
それから私は……。)
高尾と別れ、少しベンチに座り
噴水を眺めた。
早く帰らなければと思う一方
考え事を始めてしまった頭は、体を動かそうとしない。
「……さや?」
「え?…!…大輝…!」
声のした方を見ると桐皇のジャージを着た青峰がいた。
まずい そう思った。
なのに目を離せない。
青峰の吊りあがった目が驚き見開き
さやを見つめていた。
時間が止まったようだ。
周りは動きを止めていないのに
青峰とさやの間だけ
すっぽり時間が抜け落ち
遠い青峰の熱がさやに伝わる