第5章 IH前
「は、はじめっまして…くっ…
真太郎、達の…彼女の…ふふっ」
「…さや?どうしたのだよ!?」
「えっ!?なに俺なんかしちゃったの真ちゃん!?」
何かを堪えるように途切れ途切れに話すさや
緑間も高尾も何事だと焦り
おろおろとさやの様子を伺っている
「あーもうだめー!
ふふっ!あははっ!」
さやは体をくの字に曲げ
笑う口を抑えてはいるが一向に収まらない。
ぷるぷると震えながら笑う姿は
緑間でもかなり久しぶりに見る大爆笑だった。
「真ちゃんっ!真太郎がっあははっ真ちゃん!」
ずっと聞こえていないフリをしていた
あの真面目でふざける事を知らない緑間が
チームメイトに真ちゃんなどと呼ばれているのを聞いたら
どうしても笑いが堪えきれなかった。
ヒーヒー言いながら笑うさやは
普段の大人っぽさや近寄り難さは消え、ただの女の子だった。
「…高尾、今日ばかりはお前を褒めてやるのだよ」
「ん!?…おお。
俺全然状況が掴めてないんだけど…。」
普段見ることが出来ないさやの満面の笑みに
それをさせた高尾に嫉妬を抱きつつ
どこか安心するような気持ちになった。
*
「改めまして、彼女の紅林さやです。」
ようやくさやが笑い終わったのは
試合が始まる頃だった。
緑間は試合を見つつさや達の話に耳を傾けている。
「高尾くんの話は真太郎から聞いていたわ
真太郎に構ってくれてありがと」
「いやいやー!とんでもない!
てかギャップすごっ…さっきと全然違うじゃん!」
「あんなに笑ったのは久しぶりよ
もう忘れて。」
ポーカーフェイスで話すさやに
戸惑いをかくせない高尾
綺麗な顔があんなに崩れて笑ったかと思えば
今度は大人の女の顔。
「(不思議な子だなー…
いいなーなんて凄く、思わなくもないけど
真ちゃんの彼女だし)」
「あ、紅林さや?って言ったら
女子バスケ、女帝の紅林!?」