第5章 IH前
授業終了の合図がなり
気まづい空気の教室からやっと解放されると
さやはほっと息をはいた。
女子の視線が痛い。
先程泣かせてしまった女の子は
どうやら同じクラスだった様だ。
「紅林ー、なんか女子こっち見てね?」
入学初日話しかけてきた男だ。
名前は林康太郎と言うらしい。
あれ以来なにかとさやにくっついてきては
お節介をやく。
「…今日クラスの女子に呼び出されたんだ」
「え!?まじ?それって…告白!?」
「まあ…それを断ったんだが
断り方を間違えたらしい…」
はあとため息をはく
今日何度目だろう、この憂鬱な気持ちは。
至る所で視線が痛いし
あの子はお友達が多いようだ。
「そりゃー災難だったな!
でも、彼女いねーなら付き合っちゃえばよかったのに!」
「康太郎は彼女いないかもしれないが
俺はちゃんと恋人がいる」
えー!!俺聞いてねーよ!紅林ー!
なんて林が叫ぶのを放って部活にいこうと
立ち上がると、誰かがこちらに手をふっていた。
しかもその周りには数人の女の子が
キラキラした眼差しでその人を見つめている。
「さやー!迎えにきたったでー!」
「翔一さん、元気ですね」
にこやかに笑う今吉に呆れ顔のさや。
とりあえず林にまた明日と伝え
今吉と並んで体育館に向かう事になった。
「いやー、今日のアレおもろかったなーさや?」
「嫌味ですね
わざわざその話をする為に1年の教室まで来て…」
もうため息しか出ない。
今吉はひとしきり笑った後
ぐいっとさやの耳元に顔を寄せた。
「迎えに行ったんは
これ以上さやに変な虫がつかんようにする為や」
あかんかった?
とにやりと笑う今吉。
覗き込む今吉の切れ長の目に、独占欲という毒が混ざって
鋭くなる視線が
さやの心を少し揺らした。
「俺の恋人達からしたら翔一さんが変な虫ですけどね」