第5章 IH前
生活指導室
「紅林、入ります」
ガラガラと扉を開き中へ入ると
すでに監督がおり、優雅にコーヒーをすすっていた。
「早かったな。ちゃんと担任には断ってきたか?」
「いえ、HRには出ていなかったので」
「だろうな。」
監督はそういうと
コーヒーポットを取り出し、マグカップへそそいだ
流れる様に砂糖とミルクも用意され
生活指導室とは思えない準備のよさだ。
「見ていたよ。君が呼び出される所を」
「…ああ、そうだったんですね
ならもっと早くに呼んでくださればいいものを」
「すまんな、こちらも忙しくてな。」
さやは砂糖を1つ、ぽちゃとコーヒーにいれた
コーヒーをすする
暖かいコーヒーに砂糖の甘味が丁度よく
さやの体を癒していく。
「最近、部はどうだ?」
·「変わりありません。
せっかくの機会ですので楽しませてもらってますよ。」
「青峰や桃井とは出くわしていないな?」
「ええ、大輝はほとんど屋上にいるし
桃井は髪で遠くからでも気づくので、避けています」
「ならいい。」
監督は素っ気なくそう言うと
またコーヒーを口にした。
こんな何にも興味なさそうな男が、私の事を…
なんだか不思議だ。
「今日呼んだのはIHの件だ。
さやはIHには予定通り出さない。」
「はい。構いません。」
「だが、もし…青峰が出られない様な事があれば…
さやに…
青峰のポジションに入ってもらいたい」
渋い顔でそう告げる監督
少なからず驚いた。
青峰は万全だと聞いているし
そうじゃなくてもさや以外にも3年生選手もいる
「…確実にバレますよ?
それが準決、決勝となれば確実に私の恋人達が相手です。
桃井の件もあります。」
「…わかっている。もしもの話だよ。
もし全てが明らかになってしまったとしても
約束通り、夏合宿までは参加させる。」
いつになく真剣な顔をしている監督。
そんなに勝ちたいのだろうか。
それとも…….
「….わかりました。」
「ありがとう。
お詫びに今度なにかプレゼントでも贈ろう」
「…どうも。」
本当によくわからない人だ。